釣り雑誌等に掲載したものに加筆して、再録しました。



No.8 2004/09/17


絵のある旅-4
ふるさとの川 釣行記(中)奥入瀬渓流・焼山<やけやま>
高見政良


 岩魚から始まる、雄大華麗な伝説がある。木こりの息子八郎太郎
(はちのたろう)が炊事の水汲みで岩魚を捕まえた。小屋に帰って
焼いたらあまりに旨そうなので残さず食べてしまった。すると、も
の凄く咽が乾き桶の水では足りずに川に入って呑み続けた。そうす
る内に、恐ろしい大蛇の姿に変わっていたという。

 八郎太郎は魔人となり十和田湖に住みついた。そこに難行苦行を
続けていた南祖坊(なんそのぼう)があらわれ、七日七夜の戦いの
末に法力によって勝ち、湖の主になった。追われた八郎太郎が辿り
着いた所が秋田の八郎潟である。

 場当たり農政により、八郎潟は干拓。その後の減反政策などで放
置されたままだったりしていた。
 彼はどうしたのだろう? ずっと気になっていた。今度の旅で読
んだ『十和田信仰』(小館衷三・著/北方新社・刊)で、その後を
知ることができた。

 同じ秋田の田沢湖には辰子姫という竜が住んでいてた。辰子と八
郎太郎は恋仲になり、秋から春まで田沢湖で暮らしていたという。
その情熱で湖は厳しい冬でも凍らないのだそうだ。
  終の住処は、愛しい人のもとだったか…。



 小鳥が鳴いている……。シマッタ! もう明るい! 夜の明け始
める“朝まずめ”こそ、日暮れ時の“夕まずめ”と並ぶ釣人にとっ
ては逃してはならないスペシャル・ゴールデンタイムなのだ。
 呑み過ぎたようだ。まだ、みんなは眠っている。昨日と同じ橋の
下へ向かった。

 水が少し冷たい。上流に向かうが、釣れる気配がない。支流の入
口には、今日も車が三台。
 昼過ぎても、小濁り(ささにごり)のままだ。気温が上がらない。
相変わらず、魚信(アタリ)はない。

 数年前、インドの放浪から帰り、故郷で釣り三昧の日々を送って
いた後輩に連れられて入った支流に向かうことにした。苦労して対
岸に渡り、廊下状の所を高巻く。ここから先がよく釣れた所だ。期
待に胸の鼓動は高鳴る!
 しかし、目の前に現れた風景に愕然とする、哀れな釣人である。

              つづく


《 北の釣り 1989年6月号 》



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