釣り雑誌等に掲載したものに加筆して、再録しました。



No.7 2004/09/10


絵のある旅-3
ふるさとの川 釣行記(中) 奥入瀬渓流・焼山<やけやま>

高見政良


 宿は奥入瀬渓谷の入口、焼山にある「山の家・南八甲田」という
小さな民宿だ。山女魚と岩魚に振られてしまったその夜は、ご主人
夫婦と野鳥の会・モモンガご一行、通りがかり外国人ペアと情けな
い釣師による、豪華絢爛地元牛肉野菜山菜バーベキューと地酒、ま
だ寒い早春庭先大宴会へと突入していく……。

 厚手のワークシャツとセーターの助けをかりないと、風呂上がり
の心地良さも長続きしない。東京を出るときは半袖でも暑かったの
だが…。五月初旬、北国の春はまだ浅い。

 予約をしないで来てしまい、無理を言って空けてもらった部屋で
“本日の反省”を行っていると、声が掛かった。「夕食は、みんな
と一緒に外でやりましょう」そう言って、ダウンジャケットを手渡
してくれる。暗くなり始めた庭先では、宿の奥さんと先客の数人が
賑やかに準備をしている。犬のチビも、これから始まることを我が
ことのように喜んでいる。

 ご主人の案内で八甲田の山を歩き回ってきた一男四女の同宿舎は、
東京の「野鳥の会」のメンバーとのこと。ここは同会の協定民宿で
もある。私と違って実り多い一日だったらしく、「あれがいた。こ
れがいた。なんとかが鳴いていた・・・」と楽し気だ。果ては、昨
夜は呑み過ぎたらしく「ヤッホー、気持ち悪いよー。なんて叫ばな
いでよね!」などと言っている。「野性の会」とでも改名した方が
いい、愛すべき紳士淑女たちである。



 「今日は、モモンガ出るかしら?」と話している。モモンガとは
ムササビの小型のもので、道を隔てた高い木のうろに住んでいて、
夕方の決まった時間に現れるらしい。昨夜は出なかったそうだ。

 山菜を肴に、まず冷たいビール、次いで地酒。これが山旅におけ
る基本的酒の呑み方である。空きっ腹に燗酒がしみわたってゆく。
 地元のものだという、柔らかくて旨い牛肉の分厚いやつを、これ
でもかこれでもかと皿にのせてくれる。タラの芽や笹筍も、さっと
炙って白味噌で喰うと、これもたまらない。
 野菜や肴がビシバシ焼かれる。酒が回って来た。「獣の臭いがす
る」と野性の淑女。一番星が出た。モモンガはまだ出ない…。
 もう入らないというのに、お好み焼きをワイワイ作っている。北
斗七星が昇って来た。モモンガはもう出ない…。

 日焼け(雪焼け)した宿の主人の顔が闇の中で判然としなくなっ
た頃、通り掛かった外国人キヤンパーの男女を酒盛りに引きずり込
む。星たちは見る見る位置を変えている。炭火が落ちた。
 「中に入って続きだぁー!」かくして、酒宴は続いていった……。

              つづく



《 北の釣り 1989年6月号 》


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