釣り雑誌等に掲載したものに加筆して、再録しました。



No.1 2002/08/05



新・魚類分布図

高見政良

 「東京は住みにくい!」と地方に引っ込む人たちがいる。東京生
れの友人も、「田舎者がどんどん東京を変えていく。昔馴染みの古
くて良いものが無くなってしまった」そう言って家族と共に北海道
へ越して行ってしまった。何家族かで長野の過疎の村の廃校に移り
住んだ連中もいる。
 新天地を求める者。仕方なく留まっている者。己を変えて生きて
いく者。そして滅びる者も・・・。“水に馴染む”という言葉があ
るが、人間もなかなか大変なのだ。

 暑かった昨年の夏は、日射病の初体験と思いがけない魚たちとの
出合いで過ぎた。三年ぶりの外房鴨川では、あんなに釣れていた石
鯛の子やメジナ、ウミタナゴに代わって、廃水口の周りに群れる名
前も知らないヌルヌルとした魚や腐肉に群がる太ったボラが嫌とい
うほど釣れた。
  そういえば、漁港の堤防は立派になっていたっけ。

 奥多摩湖(小河内ダム)上流の小菅川では、ヤマメ、ハヤに混じ
ってヤマベ(オイカワ)やニジマスと、思いのほか賑やかな釣りが
出来た。
 ヤマベは本来関西の魚で、琵琶湖産の稚アユを放流するようにな
り、それに混じって関東にも生息するようになったと言われている。
この人造湖にも大量に繁殖している。
  近年ルアー・フィッシングの人気が高まり、対象魚としてブラッ
ク・バスという外国産の肉食魚が秘かに持ち込まれた。天敵も無く、
豊富なヤマベを餌に奥多摩湖は新参者の天下となっている。

 小淵沢辺りの釜無川本流は、砂利採取のため川が荒れてヤマメが
住めなくなり、久しく釣りの情報誌からも忘れられていた。子供た
ちのアブラッパヤ釣り仕掛けの竿に、パーマークのきれいな魚体が
上がってきた時には、我が目を疑ってしまった。
 生まれて初めてヤマメを釣り上げた二人の少年には、忘れられな
い事件になることだろう。

 今、魚たちは自然をも変える人間によって、氷河期以来の危機の
中におかれている。
 その人間はといえば、自分で創った社会環境に翻弄され、自らを
絶滅する道具までつくってしまっている・・・!

 さて、私が奥入瀬渓流生れの様子の良いヤマメだとすると、いき
つけの『SEEK・DOOR』という吉祥寺の片すみにあるバーに夜な
夜な出没する魚類は、ウナギ、ナマズ、ムツゴロウ、ダボハゼ、ト
ラフグ、オニオコゼ、ウツボ、ウミヘビ、イソギンチャク、クサヤ、
カマボコ、カツオブシ、カイバシラにウーロンチャ・・?
 それにつけても、都会の汚れた水に息も絶え絶えなんでしょうか、
若アユ、白ギス、姫タナゴなど、最近とんと見かけなくなりました
なぁ・・・。


《 北の釣り 1988年6月号 》


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