軍都・小倉──その歴史── 
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1明治前半──小倉鎮台から乃木少佐の歩兵第十四連隊まで──  
 明治時代に入ってすぐ、まだ維新政府も足場が危うかったと思われる頃の明治4年4月、小倉城跡に西海道鎮台が設置されました。「鎮台」というのは地方を軍事的に統括するために、東京の親兵一万人と別に東西二個所に設置された地方主要軍です(東山道鎮台は石巻に置かれました)。
 この鎮台制はその後拡大され、明治6年には全国6個所に設置されました(6管鎮台制)。東から石巻・東京・名古屋・大阪・広島・熊本です。この時小倉から難攻不落の名城をもつ熊本に鎮台が移されました。旧薩摩藩の不平藩士を警戒するためであったと言われています。
 明治8年1月、熊本鎮台の歩兵第二十六連隊が小倉に一時的に駐屯し、さらに4月、歩兵第十四連隊が小倉に設置されました。この時、乃木希典少佐が連隊長心得として赴任しています。そして明治10年、勃発した西南戦争に出陣した乃木連隊は激戦中、連隊旗を敵に奪われてしまいます。これは当時の軍隊としては全滅にも比する大事件で、かなり話題となりました。日露戦争での「乃木は戦下手だ」という風評はこれに端を発しています。

2明治後半から大正期──第十二師団の小倉設置から久留米移転まで
 明治21年に地方主要軍の名称は、「鎮台」から「師団」と名称が変わりました(鎮台制から師団制への移行)。明治29年に師団数が倍増し、その時小倉に第十二師団が設置されました。この師団のもとには、以下の部隊が置かれ、小倉はまさしく軍都の雰囲気を強めます。歩兵第十四連隊、騎兵第十二連隊、野戦砲兵第十二連隊、工兵第十二連隊、輜重兵第十二連隊、とさまざまな種類の部隊が駐屯していました。城内の大手町域はもちろん、城野などの現在自衛隊が駐屯している場所などがそれらの駐屯地また訓練場として使用されていました。
 その後、大正期に入って世界的な不況、また軍縮の情勢に従い、師団数が減少されることになり、大正14年、小倉の第十二師団は久留米に移転することになります。この移転については各方面への影響が多大であり、小倉経済も大打撃を受けることが予想されたといいます。ここで小倉は軍都(駐留地)としての役割を終えたかに見えました。

3大正末期から昭和前期──関東大震災から敗戦まで
 小倉から久留米に師団が移転し、広大な敷地が残りました。これの再開発にあたり、小倉と軍隊の関係が再び始まるのです。今度は主に軍需工場として。
 この少し前の大正12年、関東大震災が起こり、東京の小石川砲兵工廠が壊滅するという大事件が起きましたが、その砲兵工場復旧の際、これまで東京に集中設置されていた工廠を地方に分散することになりました。大正14年に師団が移動してしまった小倉はその誘致に乗り出します。もちろん全国各地も名乗りをあげ、熾烈な誘致競争の後、昭和2年に小倉に移転することが決定しました。東京工廠のほぼ5分の3が 移転するという規模でした。
 移転してきた工場は次のとおりです。
1:小銃製造所の大部分、
2:砲具製造所、軍刀・馬具・弾倉・麻製兵器・鋳造兵器・砲用弾丸・
  蹄鉄蹄釘・水筒・飛行機・自動車の大部分、
3:積品製造所、眼鏡・測遠器・照準具・通信具・電気諸兵器・
  職工具類の大部分。
 この移転より前にも、小倉城内には陸軍の兵器工場がありました。大正元年に「小倉兵器製造所」が開設されています。これは、陸軍の中央機関「陸軍造兵廠」が直轄する6機関の一つとされるほど重要なものでした。
 昭和8年、「小倉兵器製造所」は東京工廠の移転に伴い「小倉工廠」に格上げされます。その後昭和15年には「小倉造兵廠」に改称されました。中央直轄の8造兵廠の 一つとして軍需都市としての地位はますます重要視されていきました。8造兵廠の中 では、生産額は14%、人員数で19%を占め、それぞれ2位、3位という全国的に見ても 大規模なものでした。最盛期の昭和18年末には総員数4万人以上となったそうです。
 小倉陸軍造兵廠(城内、大手町周辺)は、全体を三区画に分けていました。東京からの移転工場は主に第一、第二製造所区域に集められて、第三製造所は従来からのものが主に集められました。敷地は第一・第二・第三製造所合計で17万6581坪、最大幅 1325メートル、最縦長735メートルというものでした。製造兵器の担当は、第一では 戦車、第二では小銃・機関銃・航空機搭載機関砲・高射機関砲、第三では砲弾を担当していました。
 そのような大規模軍需工場も、終戦時には大分県日田、福岡県春日への工場疎開などで稼働率も著しく低下しており、工員数も半減していました。敗戦直後、小倉市民が殺到し倉庫内の物資を収奪する事件がおきるほどに活気と統制はなくなっていたそうです。
 
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