200511月の トンテンカン劇場

2005/11/25(金)『弘法は筆を選ばないが、私は選びます』

暑い、暑いともだえ苦しんでいるうちに、気が付いたら11月!
しかし秋というよりは、秋の仮面をかぶった夏のような日々が続いて、夏から秋への季節の変化がなにかヘンだし、あまりにも地震が多すぎますし、地表が温暖化することで地震は増えると聞くし、昨年は週末ごとに日本を襲った台風は今年はメキシコ湾で猛威をふるったみたいですが、日本海では越前クラゲの大量発生で、今、大変です。

こちらでは9月に近海の底引き網が解禁されて、サカナ屋さんにはアジやサンマやカマスがズラッと並んで、これから冬に向かって魚の身が締まり皮下脂肪が増えてどんどんお魚の味が美味しくなっていく時期なんですが、漁師さんたちが「もうやっていけない〜!」と悲鳴を上げています。このままでは日本海側に住む私たちの生きる喜びが無くなってしまいますし、なにより漁師さんたちの生活が成り立たなくなります。

黄河や揚子江が流れ込む中国沿岸で生まれて、海流に乗って日本海にやって来る越前クラゲは、中国の急激な近代化が生み出した、中国から日本への嬉しくない「プレゼント」。
お〜い、いったいどういう工場排水の仕方をしてるんだい?生活排水の規制はかけてるのかい〜?
といくら怒っても、これまでの近代文明が環境を壊して温暖化した海に、これから近代化したいという国が汚水を垂れ流してプランクトンを増やしているのだとしたら、それに怒る私たちは「この糸はオレのものだ」と怒鳴る「蜘蛛の糸」に出てくるカンダダ。
日本海ももうお昼近くなりました。…といっても、漁師さんたちにも私たちにも安らかな日々は来ません。
「近代化っていいことばかりじゃないよ」と自分たちの失敗をぜんぶ説明して、私たちはこうやって被害を最小限に止めようと努力してきたんだけどねって彼らを説得して、その「一直線さ」をなんとかマイルド化してもらうように働きかけるしかないんだろうね。

9月24日発売の「幻想と怪奇の世界」という雑誌に「花の都に捧げる」(100ページ読み切り)が載ったんですが、これは再録で、カラー表紙だけ描き下ろしだったんですが、このイラストは自分でもあまり好きじゃないので、これからアップする予定はないんですが、ご覧にならなかった方には分からない泣き言をちょっと言わせてもらいます。

このイラストを描いたBBケントボード(細目)は、以前に書いたとおり、去年(04年)買った「不良ボード」で、BBケントボードは一番上に英国製の水彩紙のBBケントを張って、その下に薄い紙パルプを何枚も張り合わせて一枚のボードにしてるんですが、二層目か三層目の紙パルプが以前より吸水性が悪い素材になって、そこで水分がはね返されてにじみとしてじんわりと表面にリターンバックして来るんじゃないか、と思ってるんですが…。

その被害は水で薄めて使うカラーインクを使ったときに特にひどくて(たとえば『危険な席』の見開き表紙。ブルーが紺色になり、全体に色が沈んだ)、あまり水を使わない透明水彩や日本画絵の具やリキテックスはそれほど影響が出ないので(カラーインクをほとんど使わなかった「歌舞伎」のイラストは影響がなかった)、新しいボードはフデの乗りがよくて発色がとても良くて、廃棄するのはもったいない。うまく絵の具を使い分ければこのまま使えるだろう。カラーインクを多量に使う予定があるイラストは、おおむかし買って、ほこりをかぶって眠っている古いボードを使うことにすればいい(文庫のイラストがそれです)。
これが品質劣化したので、新しいボードを買ったんですが…(笑)。

この表紙イラストの注文を受けたとき、ちょっと前「耳袋」の表紙を描くときに何枚か押入からボードを出して、そのまま机の横に置いてあったのをひょいと手に取って、それに下絵を描いて、主線を入れて、色を塗ろうとしたとたん、「しまった〜〜〜っ!!!」

筆が画面に着いたとたん、ボードがシュウ〜と絵の具を吸い込んで、そのあとにくっきり筆のあとが残ってシミになる。
え、日本画絵の具だよ。そんなに水使ってないのに、どうしてそんなにボケボケになるの?と、まっ青になって、なんとかごまかせないかとペタペタ色を塗り重ねれば塗り重ねるほどフデのあとはくっきり残って、色は沈み込んで、塗りたいと思っている色からどんどん遠ざかっていって、そうこうするうちに〆切は迫ってくるし、今から新しいボードに下絵を描いて主線(おもせん)をペン入れするのはぜったいイヤだし。
主線というのは「一期一会」という覚悟で入れるものですから、二度と同じ線は引けない。なぞろうとしたら自分の作品を贋作することになって、線に迷いがありますね、勢いがありません、これは贋作です…と「なんでも鑑定団」の先生方が仰ることは真実です(笑)。
も〜ど〜しよ〜かとパニックでした。

なんとかシミが目立たないようにと色を塗り重ねて、修正にエネルギーを使い果たしてヘトヘトの状態でアップしたんですが、デザイナーさんが優秀で(^_^)とても綺麗な印刷に仕上げて下さったので、心から感謝しています。原画はホント、ひどかった…。

考えてみれば思い通りの絵が描けた!と思ってアップしても、印刷されたものは原稿とは似ても似つかぬ仕上がりになることはよくあることだし、そそぎ込んだ労力と出来ばえが比例すると思う方が間違いなんですが…やっぱり綺麗に仕上がると描き手は本当に嬉しいものです。

なんでこんなトラブルが起こったかと考えると、どうもボードをしまってあった押入から出して、それが入っていたポリプロピレン(たぶん)の袋から出して、部屋の中で1、2ヶ月放置して、しかもそのあいだに梅雨があって(東京の梅雨は金沢の日常ですが、金沢の梅雨は金沢の日常で、大して変化は感じないんですが、感覚では捕らえきれぬ絶大な違いがあるらしくて、一度金沢の梅雨を経た原稿用紙は使いものにならなくなるし、観葉植物を入れたテラコッタの鉢はカビが生えて土ごと腐った…^^;)、そのあいだにボードが水分をたっぷり吸い込んで質的変化を起こしたらしくて、上に本かなんかが重なってたらしい上半分はフツーに塗れるのに、露出して湿気にさらされていた下半分はボスボスで、上半分はフデが動くのに、下半分はフデを置いたとたんシミだらけ…なんて、漫画家人生長くやってて初めて経験しました。

去年買ったこのボード、いったいどういう品質変化を起こすのか予測がつかない、なんて危険なヤツだろう…と改めて思い知ったので、絵の具を使い分けてこれを使っていこうなんて甘い考えかもしれない。まだだいぶ残ってるすべてのボードを捨てて新しいのを買って…と思っても、いったいなにを新しく買えばいいのか…?東京ならちょっと買い物ついでにTOOか世界堂でためしに一枚チョイ買いして、調子が良ければまとめ買い、なんですが、金沢には数年前に画材店が無くなったので、チョイ買いができない。インターネットショッピングをしようにも、注文が一枚じゃ送料がもったいない。この際ミューズにはさよ〜なら言って、他のメーカー!と思っても、アルシェ(フランス)やクラシコ・ファブリアーノ(イタリア)も優秀な水彩紙ですが、ボードが無い。クレスタやアルビオンも使い易いが、それなら紙のBBケントを使えばいいって話になる。

なぜボードを使うかというと、絵の具を塗ると紙はデコボコに波うって、筆が使いにくくなるので、ずうっとBBケントボードを使ってきたんですが…ホント困っています。