20048月の トンテンカン劇場

2004/8/15(日)『そろそろ、秋がやってきますね(希望的観測)』

「どこにも逃げ場がない…!」と叫びだしてしまうくらい、毎日毎日暑うて〜暑うて〜暑うて〜、もうたまりまへんなあ〜〜〜、という日々が続いて、グロッキーのあまり廃人と化していたんですが、やっとここ数日30度を切って、ちょっと息がつけるようになりました。

「危険な席」がやっと終わって、やれやれと目をこすったら腫れて、眼医者さんに行くと「結膜炎ですね」「はあ〜!?」というくらい免疫力がなくなっている時に猛暑が始まったので、防備がまったく整っていない体で連日36度の日々に突入してしまったらしくて、7月アタマからずっとバテバテで動けなくなっていました。でも体調万全で突入した方も7月中旬くらいには体力使い果たして、青息吐息であえぐばかりの日々だったと思います…。30度を切った日なんてあったっけ…(ない)。最低気温が25度を切った日も…(記憶に)ない。我慢できずにクーラーをつけるとますます体がダルくなって、栄養を取らなくちゃと台所へ入ると、暑くってガスが付けられない(笑)。最高気温32度ときくと、今日は涼しかったなぁ。週間予報に36度がずっと続いているのを見て、お願いだから32度とか33度とかもうちょっと節度ある優しさを示していただけませんか、夏さん…?

おまけに玉三郎が19年ぶりに「桜姫」を再演するというので、7月に「桜姫東文章」を見るために東京とんぼ返りをしました。しかももうじき着付け教員免状を取るという友人の力を借りて、36度の中を着物で歌舞伎見物!「夏はこれで汗を吸いとるんです!」と補正用具やタオルでぐるぐる巻きにされた私は「蒸しダルマ」。すれ違った人は、私の襟足から湯気が立ちのぼっているのを見たことでしょう。しかし暑さもものともしないキモノ・ギャルたちは歌舞伎座の三分の一くらいを埋めていました。みんなエライぞっ!
その翌日渋谷でカキアゲせいろを食べてるときにあの「39.5度」を経験して、このままだと私がカキアゲになる…と、荷物をまとめてほうほうのていで逃げ帰ってきました。でも金沢も暑かったの…。

ところで7月22日に「危険な席」の載った「夢幻館」が発売されました。買っていただけましたでしょうか?わん(お手)。
この表紙イラストは上手く描けなくて、時間がかかったわりには大したイラストじゃなくて(^^;)すいません。これで本文ページが何日も遅れたんだなあ。あの苦労の日々を白黒ページに注いでいればもうちょっとバックが描けたのになぁ…落涙。
ブルーとグリーンを多用した地味な絵だったので、「グリーン」と補色の「赤」を使ってデザイナーさんがインパクトのある画面にして下さいました。

ここで「補色」の解説。赤、青、緑、黄色など基本の12色(黒や茶色は入ってない)をぐるっと円形に配置した「色環図」というのを中学校の美術の時間に習った方も多いと思いますが、その「色環図」で対角線上にある色同士が「補色」関係です。たとえば「青」い空を描いたとき「補色」である「オレンジ」で太陽を描くとインパクトのある画面になる…というふうに使うんですが、私はよく「青い」絵の具を使うとき「補色」の「オレンジ」をパレットの青絵の具に混ぜる、という使い方をします。「赤」や「青」をトーン・ダウンしたい時、茶色や黒を混ぜると暗くなる。補色を混ぜると「赤」や「青」の表情が変わって、複雑なニュアンスの「赤」や「青」になる。とことん色を濁らせたい人間なんです。
グリーンと赤で有名なのは村上春樹の「ノルウェイの森」。途中でパッケージを変えて、上巻赤、下巻緑のツヤ紙になって、クリスマス・プレゼントに最適!っていわれてますます売り上げを伸ばした…と評判になりましたね。赤と緑は「色彩心理学的」に人に最もインパクトを与える組み合わせだそうで、この雑誌もクリスマス前に出たら爆発的に売れたかな(^_^)v。

恥ずかしながらこそこそ告白しますと、じつは私、雑誌の表紙を描くのがもっのすごく苦手です。
普通のカラーイラストと違って、「表紙」というのはとにかく「できるだけたくさん売る」という役目を背中にしょっているので、表紙の人物は正面を向いて(読者目線)、笑いかけている、とかいくつかのルールがあって、30年近く前の少女漫画全盛期にデビューした私は、そういうルールを体にたたき込まれていて、中でも一番大事なルールは「誰にも嫌われないこと」。
「誰にも嫌われない絵」を日中戦争や第二次世界大戦前のベルリンや歌舞伎が好きで、ピンクやブルーも好きだけど絵を描くときに黒と茶色をやたら混ぜて色を濁らせる漫画家が描くのは、ホントーにムツカシイんだから(笑)。
「LaLa」に描いていた頃は表紙要員から外れていたので良かった。自分の作品の表紙では何をやっても「作家の個性」ですむから。
「歴史ロマンDX」では巻頭カラーが多くて、何回か表紙を描くことになって、「誰にも嫌われない」絵を描くためには、とにかくカラー・インクを使う(発色が良くて、薄い塗りでもインパクトを与えられるから)。黒や茶色をなるべく使わない(色が濁って汚らしく見えるから)。
その頃描いたカラー原稿を今見ますと、なんだか自分の描いた絵のような気がしなくて、このH.P.にあまりその頃のイラストを使わないのはそのせいなんです。

フシギなのは「新・耳袋」の表紙を描くときは思いっ切りリキテクスの黒と茶色を使いまくって色を濁らせてカゲの多いキツイ感じの絵を描いてるんですが、編集部から文句が出ない(笑)。う〜ん。私の絵は「ホラー」に向いてるのか?どう転んでもホラー漫画は描けなさそうなのに、イラストがホラー的雰囲気に合うというのは、なんだか不思議でしょうがない。横溝正史とかの世界は大好きで、市川昆監督の横溝映画は封建制の闇を歌舞伎などと共通する様式美でエンターティメントに仕上げた『日本映画の最高峰!』と思ってるんですが…。

「危険な席」の本文に関しては、細い線がぜんぶ飛んでてびっくり。とくにキンパツ線は全滅ですね〜。
なにせこの雑誌はA4サイズで、原稿用紙はB4サイズですから、四分の一近くに縮小されます。縮小率が高いとキチッと細部まで描き込んだキレイな画面になる、といういい点と、縮小されるために細い線が消えて飛んじゃうという欠点の両方があるんですが、とにかく私はGペンが使えなくて主線(人物線)も丸ペンで入れる漫画家なので、ヘロヘロの細い丸ペンで描いた原稿を締め切りを遅らせて印刷所にギリギリ入れれば、印刷悪いだろうなあ…って予想はしていました。これは自業自得です。申しわけありません。

去年、講談社漫画文庫の「Shang-hai 1945 第二巻」に入れる「オリンピアード」の描き直しをしたときも、描き直した原稿を印刷所に入れるのが遅くなって、ネームの間違いをチェックしたりする試し刷り(青インクで出るので「青刷り」という。活字本でいう「校正」?)が出たときにあまりに細い線が飛びまくっていたので、このアップとこのバックをもう少し出していただけませんか〜とお願いしたら、印刷では原稿どおり、いや、原稿以上の美しさに出ていたので(縮小の効果)、ホントーに有り難かったです。でもタントーさんにはものすごいご迷惑をおかけしたと思います。ごめんなさい(^^;)。
「危険な席」は雑誌ですから「青刷り」でチェックをするわけにはいかないし、コミックスになるかも分かりませんが(その時にチェックできるかどうかも分からないし)、とにかく丸ペンしか使えない、しかもその丸ペンでヘロヘロ線しか描けない(右手の筋力が全くない)私のような人間は、本来漫画家になる資格は無かったんだよなあ…くすん、くすん。

ど〜しても訂正しておきたいのは、「この島に住むことをお許し下さい」と言うイサークの耳に「私を怒らせて、君たちに特になることはない」というセバスティアンの声が聞こえて、イサークが顔を上げると絹麻混紡の(絹40%麻60%^^;)生成り色の服のドレープを揺らせて笑っているセバスティアンの姿が目に入る。その姿を見てイサークは一目惚れする…という設定だったんですが、こんなズタ袋のような服を着てるヤツに、私ならぜったいホレない…(笑)。
ラスト近く、セバスティアンがアンリに倒されて「卑怯者!」「今ごろ気がついたのはオマエさんくらいのもんだよ」とアンリが剣を突き付けてるところで、怒ったセバスティアンが前髪をツンツンに逆立てるんですが、丸ペンでその前髪を必死で描いてて、ちょ〜カワイイ!ちょっと前の男性整髪料のCMに出てきた「いわとびペンギン」兄弟みたい!今セバスティアンを投げたらレンガ壁に突き刺さるんだわ〜とクスクス笑ってたら、それがぜんぶ飛んで、ギャグ一個死滅…。

今回原稿を描いてて、2年に一作描いてちゃダメだなあ…(笑)ってつくづく思いました。
漫画の原稿を描くのって、デッサンを取りながら右手を動かしてペン先や筆や定規やトーンなどのいろんな道具を使って、頭の中にあるモデルを紙の上に作り出していくことだから、カンナとかノミとか使って家を建てる大工さんみたいな職人仕事で、たぶん大工さんがしばらく現場を離れるとどれくらい力を入れるとカンナで何センチ削れるかってカンが鈍るように、漫画家もずっと仕事してないとダメなんです。だからこのくらいの作品は3ヶ月に一度…はムリとしても(^^;)、半年に一作は描きたい。
というわけで、なるべくすぐ新しい作品にかかろうと思っています。
掲載予定が決まってない作品を漫画家が描くことはとっても難しいんですが(モチベーションというのはホントーにムツカシイものです)、がんばりますので、どうかこれからも応援して下さいm(_ _)m。