20026月の トンテンカン劇場

2002/6/21(金)『ビル・エヴァンスを聴いていると、涙が出てくるのはなぜだろう(村上春樹風)』

今描いている漫画は「サヴァールをききながら」の三人のキャラクターが出てくるお話なので、だからサヴァールを聴きながら描いてるかといいますと、もうちょっとインパクトが強くてケレン味のあるロックやJ-POPを聴いてる方が筆が進みます。
コメディだからかな。

「色彩のブルース」

「満ち汐のロマンス」

EGO-WRAPPIN'
RDR-1030

EGO-WRAPPIN'
Minor Swing/POLYDOR
UPCM-1001

特にとっかえひっかえずっと聴いていたのがこの二枚。

エゴ・ラッピンEGO-WRAPPIN'というのは歌をうたう女性とギターを弾く男性の二人からなるユニットで、レコーディングやライブではドラムスやベースやホーンをやる人が加わります。
知らない方が多いと思うんですが、FMスタッフにファンが多くて、「色彩のブルース」という曲は、発売して二年くらいたつのに今もオリコンの100位以内に入り続けているという、演歌みたいなロング・セラー。

いわゆるJ-POPの範疇に入るのかよく分かりませんが、この世代だから当然ロックテイストが基本にあると思うんですが、このユニットの面白いところはジャズやブルースやスカやボサノヴァなどの今の日本ではマイナーとされる辺境的要素を自由自在に操って、その上に演歌ー歌謡曲的な色気もちらつかせて、今までに聴いたことがないような、すっごくカッコよくて、ノスタルジックで、フシギな音楽を作ってるところです。(専門家は「ドライブ感」とかいうのかもしれません(^^;)

7月1日から始まる日本TVのドラマ「私立探偵 濱マイク」の主題歌を担当し、7月5日に新アルバムも出すので、今プッシュをかけてるみたいなので、どこかでお耳にとまって興味を引かれましたら、買ってみて下さい。と広報宣伝員になっている。
彼らのCDには当たりはずれがあるので(^^;)、まずは上記二枚からお薦めします。特に同じ「色彩のブルース」というタイトルのMinor Swing/POLYDOR盤はぜったい買わないで下さい(笑)。なんでこんなに内容や音質に違いがあるのかフシギでたまらないんですが、インディーズで発売したアルバムやライブでの違うテイクなど、発売状況が違うものが今レコード店には並んでいるみたいです(「TOWER RECORD」金沢店のPOPによりますと)。

これまで誰も知らなかった音楽の取り入れ方をしていて、ナウいのに、目指す方向は甘くてノスタルジックな普遍性、という路線は、たぶんこれまで(そしてこれからも)ずっと私のツボで、かつての細野晴臣さんの「泰安洋行」とかムーン・ライダースとかの路線に繋がるものです。これは彼らがそういうものが好きというのではなく、私の中で繋がっている、というだけのことですが。

ジャズっぽいバックグラウンドをお持ちの方々のようで、ドラムもホーンもナマで、ギターはエレキだと思いますが、ベースは生かな、どうかな?演奏に打ち込みを使わず、クラブで演奏している音楽を「お茶の間」(死語か?)にお届けするCDです。

じつは私、J-POP、というか日本の音楽シーンが今すごく面白くてたまらないのです。
エゴ・ラッピン以外にも小島麻由美、オレンジ・ペコとか、ジャズを底にひいたアーチストが増えていて(それがみんな大阪出身で、大阪のライブ・シーンってどうなってるんだろう?と興味シンシン)今やライブチケットを手に入れるのが至難のワザというゴスペル・シンガーの綾戸智絵さんも大阪ですね。歌もいいけど、ピアノが好き!こんなホンキートンクピアノ聴いたことない。
大阪じゃないけど生バンドの東京スカ・パラダイスも大活躍で、ジャズ・ボーカルでは小林桂が人気で、ピアニストのフジ子へミングさんの演奏は東京文化会館ではなく、彼女のおウチのアトリエで床に座ってキャンドルライトの中で聴きたい(笑)。

ライブに行きたい!と思うアーチストがいっぱいいて、こんなこと今までなかったような気がするんですが。
音楽の聴き方はいろいろあって、レコードやCDを買って自宅のオーディオで聴く。武道館やコンサートホールで四角く区切られた高いステージを遠くに見ながらスピーカーの音を聴く(笑)。
でも私が一番好きなのは町を歩いてるときや、人が集まっている場所で一杯やりながら耳を傾けて、「いい音楽だねえ」とみんなと踊って騒ぐこと。音楽はそういうときに一番体の中に入ってきて、心と体を揺り動かします。

コンテンポラリー音楽の吟遊詩人化とでもいうのでしょうか(笑)。

あの。
ほんとうにね。日本の場合、歴史が明治維新でねじれちゃっていろんなことに連続性がなくなってしまって、とくに明治期にドッと入ってきた音楽は19世紀ヨーロッパのクラシックという、音楽は拝聴しなければならないという「特殊な音楽」だったので、それまであった音楽を捨てて西洋音楽を受け入れた日本の音楽環境は、歴史がずっと連続して続いている西欧に比べると、ちょっと片寄ってツイストしてしまったような気がするんですね。
でも音楽は東西を問わず、心を広げて祈ったり、体を動かして踊ったりするために生まれたもので、「拝聴」するものではなく、日常のすみっこにいつもあって、一人で聴くものではなくて、みんなで一緒に聴いて祈ったり踊ったりするためにあるんです。

明治維新から百ン十年たち、バブルのおかげで世界中のいいものも悪いものもこの国めがけて乱入してきた時期を経て、西洋音楽の受け入れも成熟して飽和点に達した今、ようやく日本人も日用品として自分たちの音楽が欲しい、音楽がないとなんだか生活が物足りない、散歩のついでにライブハウスに入ってみんなとちょっと一踊りしてから(笑)夕食の支度、なんて思うようになったのなら、それはすっごくステキなことだと思うんですね。

でビル・エヴァンスとは誰かといいますと、私が今Heartを盗まれちゃってる大好きなジャズ・ミュージシャンなんですが、そのお話しはまた今度いたしたいと思います。

 

 

2002/6/13(木)『カラ梅雨祈願。ついでに神様 日本勝利も祈っていいですか…』

ずーっとFMを聴いていたので、ポルノグラフィティの「MUGEN」がNHKのW杯テーマソングだと知った時はびっくりしました。いい曲です。NHKのJ-POP鑑識眼は業界イチね。
音楽W杯で競うのはヴァンゲリスの「2002年公式Anthem(賛歌)」。スタジアムで選手入場時に流され、あらゆる局のあらゆる番組でビデオのバックにかかっていて、聴けばだれでもああ、あの曲!と分かる。韓国や日本の東洋風の太鼓をシンセで再現したオープニングではじまり、やがて「炎のランナー」のように時間や地域性を超えたカタルシスに至る名曲。テレビでは全曲かからなくて残念。
B'zの「熱き鼓動の果て」は、世界水泳の「ウルトラソウル」の方がよかったなあ。

…とW杯を横目で見ながら、ず〜っと部屋の掃除をしてます。
このウチはどんなに掃除しても、あっという間に本や紙類で床が見えなくなる。これから資料やスクリーントーンが部屋中に散開するので、こんなに散らかっていては能率が落ちる。と場所を取ってた古いテレビが消えたのを機会に、紙や本やビデオの整理をし始めて、結局、古いビデオテープの三分の二を始末しました。

私は90年のイタリアW杯をTVで見たのがきっかけでサッカーファンになった人間です。
以前コミックスのあとがきにも書いたんですが、その翌年の91年のイタリア旅行でセリエAを見て以来(サッカー初観戦がミラノのサンシーロ・スタジアムだったのが幸運だったのか不幸だったのか…今でも悩む)、それ以来なぜかビデオをほとんど取らなくなって、今回ビデオラックを見直したら80年代後半にTVで放映された映画や舞台中継やドキュメンタリー(みんなBeta…!)ばかりで、最近の録画はサッカーテープだけでした(笑)。

個人的体験を情報として四角い箱に閉じこめるより、今という時間を他人と分け合ったほうが楽しいよ、ってなんだかイタリアで思ったらしいんですね…。
だから「その瞬間、生きている喜び」であるサッカーをビデオに撮ることほどつまらないことはないのですが、ファン・バステンのくるっと回転してディフェンダーをかわすマジカル・プレーとか、バレージのかわりにリベロに入って、そのパスから次々と得点を産み出すライカールトの神業とか、最後の数分間がこらえきれず負けるオフト・ジャパンと、それを凍りついたように見つめるだけで泣くこともできないドーハの日本人サポーターたちとか、99年ナイジェリアのスタジアムでトルシエのキスから逃げるベイビーズとか(笑)、過去にいったいなんの価値があろうと一度はゴミ袋に入れたものの、それらをごそごそ掘り返してタナに戻しました。
捨てられない過去も人にはある。。。

あ。今書いてて思い出しましたが、93年秋の「ドーハ」から99年春のナイジェリアのワールド・ユースまで、私はずっと「幽霊」でした。
その間フランスW杯に行ったりもしたけれど、信じられぬ代表の相手はお気楽ご気楽で、サッカー・ファンとしては「エア・ポケット」。カベにポツンと飛び出て、洋服が掛けられるのを待ってる孤独なフックみたいなもので、べつに自国チームでなくても「信じてる」チームがコートや帽子のようにひっかかってれば良かったんですが、その頃好きだったのはJリーグのチームくらいで(ずっとジュビロ・ファン(^^;)、ちょっと地味でした…。

それにしてもW杯はやっぱり面白いですね。
日本ががんばっているせいかな…?
優勝かと思っていたフランスが敗退し、アルゼンチンまで消えて、番狂わせの連続にハラハラドキドキ。それをマイ・スイート・ホームでの〜んびり点取り表を片手に、かわいいM−10で見てるんだから、お気楽「サッカー天国」です。

唯一の例外は日本戦…!

4日のベルギー戦を見て以来、もう私、お付き合いしたくないと思いました。
信じるのが怖い。信じるところからすべての不幸は始まる…。
なんて演歌なんか歌ってる場合じゃない。
勝敗を賭けてギリギリのこんな試合をW杯で戦うのは、今まではみんな「よその国」で、ほかの国が戦うところをのんびり見ているぶんには、W杯はとても楽しいものでした。
そこに日本も参加することで、フランスもイングランドも、負けたらこの試合を見ているその国の人たちがどんなに落胆するか、シンクロするようになってしまって、これまでのW杯より見ていてすごく疲れる…。

でもとにかく日本戦に関しては、私もう逃げます。降ります。イチぬけた、です。
そんなに時間があるわけでもないので、6月を遊んで過ごすわけにはいかないので、ケツまくってスタコラ敵前逃亡させていただきます。
日本が勝とうと負けようと、もう知りません。
ああ。テレビもラジオも届かない南の島に行って、平和なハートで過ごしたい。
それがムリなら、テレビを壊して一歩も外に出ないぞ。
でも夜になると壊れたテレビの部品をかき集めて必死で組み立てる私がいる、きっと。。。

ところでチュニジア戦について日本のTVが特集を組むときに、必ずチュニジア料理のお店が出てきてクスクスが映るんですが、それを見るたびにクスクスが食べたくなって困っています。
この辺りにアフリカ料理屋さんはないので、「くく、食べたい。でも食べられない〜」と、とうとう私は「クスクス食べたい病」を発病してしまいました。
クスクスは北アフリカの伝統料理で、お米の粉に肉や魚を煮込んだスープをかけて食べるんですが、カレーライスやハヤシライスと似ていて、一度食べるとその病原菌が永遠に体内に沈潜して、ときどき発作的にこの病気を発症するのです。