20016月の トンテンカン劇場


2001/6/25(月) 『アナログ未練の雨が降る』

夏至が終わった今日この頃、やっと夏が近づいたのに、これから日が短くなるなんてヒドイ…と思う。

どうもいろいろご心配をかけてすいません。
たくさんの暖かい励ましや激励をありがとうございました。

晴れて穏やかな日が続いたので、体調もかなり回復。このところオーディオ回りの人外魔境2の探検をしていました。
覚えておられる方も多いと思いますが、去年の今頃、私はG4を入れるために部屋の人外魔境(伏魔殿とまではいわない^^;)で鬼退治…本を片づけたり、机をたたき壊したり、獅子奮迅の大活躍をしました。
ところがウチには人外魔境がまだまだある。
十数年前に買ったステレオセットを、私は現役で使っています。
この世にオーディオの後ろでトグロをまくゴミとほこりにまみれたスパゲッティ群ほどコワイものがあるでしょうか。(パソコンの後ろもかなりコワイが…)

なにしろ私は気管支が弱くて、ほこりを吸い込むと数日寝込み、ダニやほこりアレルギーなので湿疹まで出るという掃除に向かない体質…。
といってるウチに、年代物のCDプレイヤーは壊れる、カセットデッキはおかしくなる。とうとうTVまで、スイッチに触らないのについたり消えたりするというオカルトTVになり、さいわい寝込んでも仕事に差し障らない身分になったので、こりゃいい機会と決意した。
花粉症マスクをして、足までおおう作業着を着て、給食オバサンの三角巾で髪をカバーして、完全装備で人外魔境2に踏み込み、目につくコードや散らばってるCD、レコードを片っ端からゾーキンで拭いて拭いて拭きまくり、ゴミのかたまりは掃除機で吸い込んで、なんとか掃除を終えました。
それからTVを修理してもらって(リレーという部品を取り替えた)、そのあとにDVD・レーザー・CDコンパチプレイヤーを入れました。PioneerのDVL-919です。

これでDVDがTVで見られるようになりました\(^O^)/ 
パソコンで見るより、画質が良いです。
次にLDをかけてみました。まあこんなもんでしょ。
そしてCDをかけてみました。
あかん、こりゃ。
使っていたKenwoodの出始めのころの古いCDプレイヤーに比べると、バランスがよくてキレのいい音を出します。
でもこれは「音楽」じゃない。
電子音で作った「工業製品」だ。
12万くらいで、DVD・レーザー・CD何でもかけられるキカイが「音楽」を再生するとは期待していなかったんですが…。

もともと私はCDが苦手で、レコードが好きです。
KenwoodのCDプレイヤーはまだレコードが全盛だった十数年前に「これからはCDですよ!」と店員に押しつけられて、このキンキンした金属音イヤだなあと思いながら、B面にひっくり返す手間がいらず、無限リピートもできるのが仕事中は便利で、気がつくとCDばかり聞いていました。いつのまにかレコードも売らなくなったし。(CDが発売されたのは80年頃、86年にLPとCDの比率が逆転し、90年頃LPが消えた)
でもふと気がつくと、ステレオを聴かなくなっていました(笑)。
長時間聴くのに便利なくせに、長時間CDを聴くと疲れる。レコードの方がしっくりくる。微妙に生理的なカンジなんですけどね。でもレコードはめんどうくさい。だから衛星放送が開始されると、一日中衛星つけっぱなし。怠惰な人間がますます堕落した(笑)。

「音楽」は演劇と同じで、演奏者と観客が向かいあって同じ空気を吸いながら聴くもので、いつだって同じパーフォーマンス、ミスまで必ず同じところでやる録音を繰り返し聴くのは生理的に無理があると思うんです。
でもグレン・グールドみたいに公演はしなくて、最高の状態で録音したものだけを自分の演奏だと思ってくれってアーチストもいるし、どんなアーチストも最上の状態で世界中をコンサートして回れない以上、より多くの人に最上の演奏を届けたいと記録を残すのは価値があることですよね。
私だってレコードで聴いて、トスカニーニってすごいなあってファンになったわけですから。

この世には「オーディオマニア」というのがいて、録音されたものをいかに再生させるかに情熱を傾けます。私は「オーディオマニア」だったことはないし、これからもならないと思いますが、今まで聴いた最高のオーディオは?と聞かれると、数年前歴史博物館で聴いた戦前の古い蓄音機と答えます。

金沢という町は観光政策なのか、歴史博物館とか町民文化館とかがやたら多くて、戦災にあわなかったせいで古い家具とか生活環境品が多く残っていて、そういう所に展示されています。そこで古い蓄音機にレコードをかけてコンサートをやってたんです。
ラッパ型スピーカーのアレではなく(資料展示ではあったと思う)、すでに布で表面をおおったスピーカーの付いた四角い立派な「蓄音機」でした。
かけるレコードは鉛盤レコードといわれる、重たくて、落とすとすぐ割れるもの。片面の収録時間は10分ぐらいで、ベートーヴェンの第五が数枚セットの分厚いBOOKにとじられ、全曲聴き終わるまでお皿を十数回ひっくり返します。一回プレイするごとに針を変えます。

どうせガーガーピーピーのレトロな騒音をたてるだけだろうと近づいて耳を傾けると、その蓄音機はベートーベンの交響曲をすみからすみまでしっかり再生していました。
ときどきコンコンと声がするのは、指揮者の咳音らしい。バイオリンの弓が本体にぶつかり、吹奏楽者は音と一緒に汗を吹きだし、それらが一体になって音楽になるところはまるでコンサートホールの最前列に座って聴いているみたいにスリル満点。
たぶん低音部での音の広がり方が浅いとか、全体で音のボリューム感が出ないとか、音響評論家ならいうと思うけど、この蓄音機は「音楽」を「再生」するのでなく「演奏」していました。もちろんこれは親が貿易商か医者の家に生まれた洋行帰りのぼんぼんしか買えないような、今の時価にしたら数百万円の蓄音機でしょう。
音楽再生技術はすでに数十年前に完成されて、それ以来さして進歩はなく、それからはいかに安くたくさんの人が便利に使えるようになるかの競争に入っただけなんだ。

その「蓄音機」が欲しいとはいわないけれど、この「工業製品」はちょっと困る、と捨てるつもりだったCDプレイヤーをあわてて繋ぎ直してCDを鳴らすと、うわっ、比べものにならないいい音だ!
これまたメンドーだからもう使わないと捨てるつもりだったNakamichiのカセットテープデッキは、レコードやCDを録音して再生するとさらに音の伸びがよくなって、とくにバイオリンの弦の響きが極上になるスグレモノでした。

これはどっちも捨てるわけにはいきません!!!

私はCDプレイヤーとカセットデッキを修理に出すことにしました。
しかし電話をかけると、部品の生産終了で修理不能かもしれないので覚悟してくださいとの返事。十数年前の製品だもの、しかたない。
新しいのは買えるのかとインターネットで探しまくると。
今ごろ知りました。アナログ音響機器、全滅してたんですね…。
泣きながらボブ・ディランの「時代は変わる」歌っちゃいました。

私の青春時代は、さすがに名曲喫茶(数百万の蓄音機を買えるぼんぼん以外の人のために作られた、コーヒー一杯でベートーベンやマーラーを聴ける空間貸間業)はマイナーでしたが、ジャズ喫茶やロック喫茶の全盛期で、巨大なJBLのスピーカーが壁を埋めていました。
私がステレオセットを十数年前に買った吉祥寺LAOXは、二階のフロアの半分以上をアンプやスピーカーなどの音響機器コーナーが占め、クラシックならTANNOY、ダイヤトーン(ご冥福を祈ります)のスピーカーもいいですよとガラスの壁で囲われた試聴室はウンチク飛びまくり。
今、家電量販店のすみっこにちょこっと置いてあるコンポとラジカセが、ツワモノどもが夢の跡です。DVDとMDプレイヤーしかないやん。こんなもので聴いてたら、そら友人との会話ネタ、カラオケも歌えるコミュニケーション・ツールになるわな、音楽は。

かつていた「オーディオファン」といわれる人たちはいったいどこへいったんだろうと思ったら、おりました。しっかり、強固に、存在していました、オタクは死なない(笑)。
依然として、アキュフェーズがいい、いやTEACだというウンチクが、インターネットで飛び交っていました。しかし製造メーカーが減っているので、彼らも中古情報とかジャンク品を直す方法とか苦労しているようです。

デジタル機器に力を入れなかった音響機器メーカーは悲惨です。
まだ動くけどいつ壊れるかわからない山水のアンプは新品を売ってるんだろうかと山水に行ってみたら、新品は売ってたけど、アンプしか売ってないメーカーなんてよく潰れないもんだ…(爆涙)。ここのサービスページは親切でした。私のAU-D707Xはしっかり部品生産終了につき修理不可と書いてあった(暴涙)。
そこでとんでもないものを見つけました。真空管アンプ!!!トランジスタアンプより音が柔らかいというので、かつてマニアが愛用してたものです。
昨年記念に限定生産したところ大好評につき、世界中から良質の真空管をかき集めて受注生産を始めました、すべて手仕事(一ヶ月かかる)。44万円!
Nakamichiでは、カセットテープデッキ「DRAGON」(という名前の名器があった)の再現モデル、これも受注生産、50万円!
Nakamichiは家庭用カセットテープが消えたあとも、レコーディングスタジオのテープはここ!といわれるくらい、優秀なテープデッキメーカーです。(でも今はDVDメーカー)

アナログでなきゃあという人はまだまだ多く、オンラインでボーボーと熱く燃えています。その人たちのためにアナログメーカーは自分たちの誇りを細々と生産・販売し続けています(自分たちを蹴落としたデジタル技術を利用して)。
でも戦前の蓄音機時代と同じく、一般人が手に入れられるモノではなくなったようです。
時代はチェンジ(変わる)するのではなく、ターン(繰り返す)するだけなのだろうか。

おっと。数は減りましたが、CD専用プレイヤーやカセットテープデッキやアンプやレコードプレイヤーを作っているメーカーは海外も含めてまだまだあります。そういうところはカタログにはあんまり載せないけど、注文を受けると倉庫の奥からゴソゴソ引っぱり出してくるようです。
秋葉原にはそういうオーディオをまだ扱っている店があって、中古品を安く買える店もあるようです。インターネット・オークションでも今けっこうアナログオーディオが飛び交ってます。技術開発はとっくに終わってるので、中古でも音は新品に負けないそうです。
でもこーゆーのはある程度知識がないと手を出せないんですよね。オタクの聖域に入っちゃった。
私がこのステレオセットを買った80年代は、高品質の音楽再生装置が一番普及して手に入れやすい時代だったみたいです。

しかしこのまま「工業製品」が音楽となり、アナログオーディオが骨董品として消えていくのは困ります。
ちょっと、ねえ、そこいくあなた。そう、あなたです。
よろしかったらアナログオタクの泥沼にずぶずぶ入り込んでみませんか?
レトロなカセットテープやレコードプレイヤー(せめて専用CDプレイヤー)で手間ひまかけて音楽を聴くのもけっこういいもんですよ。
洋行帰りのぼんぼんの贅沢は望むべくもありませんが、音楽の繊細さ、表情の豊かさ、響きの暖かさ、そしてなによりシビレちゃう、このバイオリンの響き〜というめくるめく官能の世界を、アナログオーディオはあなたのお部屋にお届けします (^_^)v。

(註) なんとびっくり。この7月に「金沢蓄音機博物館」が開館することになりました。金沢にはよほどいい蓄音機が集まってるのか。この音を聴いた学芸員がもっとたくさんの人に聴いてもらいたい!と使命感に燃えたのか。「利家とまつ」で来年来る観光客向けに観光スポットを増やしたのか(笑)。
とまれ地元の方も観光でいらっしゃる方も、ここでいつでも蓄音機コンサートが聴けます!場所は尾張町の菓子の老舗「森八」本店のとなりです。
オチがついちゃったよ、今回のトンテンカン。

*付録 酒場的CDライフ

 

 

2001/6/7(木)『梅雨時通信』

アジサイが咲きはじめました。
日本列島はそろそろ梅雨に入りました。
みなさま、お元気でおすごしでしょうか。

先先回の締め切りにインフルエンザをひいたみたい…と書きましたが、あとから、私もひいた、誰かもひいてた、おお、同じ症状だ、という情報が集まって、やっぱり春頃にインフルエンザが流行ったみたいです。
高熱のわりに薬ですぐおさまったんですが、どうもそのあと気管支が不調で、これはインフルエンザの後遺症かしら…。セキも鼻水も出なかったのに後遺症だけが残るとは、変わったインフルエンザだと思う。

変わったといえば、このインフルエンザ、プロポリスが効かなかったことも変わってる。周り中ゼエゼエゲホゲホいってる時でも、これさえ飲んでいればかからなかったのに…。

仕事明けに映画館へ行ったのも悪かったのかもしれない。
締め切りが終わるとよく映画館に行くんですが、これはあちら側から現実世界に戻るための「儀式」です。締め切り中というのは仕事部屋ごとあっちにいってる状態で、その憑き物を落とすために作家はたいがい、新宿に飲みに行ったり、友人と騒いだり、旅行をしたり、おはらいをします。べつの「祭り」の暴力性が必要なんですね。
ところが空調の悪い映画館に仕事明けに行くと、荒れたのどに細菌がくっついて、免疫力が落ちているものだからすぐ風邪を発病する。その免疫力を高めて細菌をやっつけてくれるのがプロポリスなんですが。

今ごろ「ハンニバル」と、なぜ今手塚治虫の「メトロポリス」?を見ました(シネ・コンのレディース・デイだったのだ。このあと「JSA」を見ようとしたら、体力が尽きていた)

「ハンニバル」はよくできておりました。リドリー・スコットは映画の文法を心得た立派な監督です。ぱちぱち。
しかしサイコスリラーというカテゴリーの中で最高の仕事をしました!という「羊たちの沈黙」は、映画も小説もちょっとゴメンナサイで(趣味の問題)、カテゴリーをぶち壊して、最後はファンタジーになっちゃいました、おいおいおいという破調の「ハンニバル」に大感動した私としては、これはやっぱり小説の世界でしょう、映画化する必要は(お客が入ること以外)なかったんじゃ、という感想です。

「メトロポリス」は、いい、とはいわないが(笑)、妙に印象に残る映画でした。手塚治虫さんの初期の丸っこい絵柄と大友克洋か(大友さんは脚本を書いただけで、絵には参加していないようですが)スクエアかって精密なCGバックが(「Photoshop」大活躍!)、1930年代ニューヨークふうの摩天楼とディキシーランドジャズの中で面白い融合をしています。「バットマン」に出てくるゴッサムシティを思い出した私は、どうも30年代のあの種の雰囲気に弱いようです。

6月に入ったら久しぶりにゆっくり東京へ行こうと思っていたんですが、気管支不調に加えて、先月の締め切りを編集部に顔向けできないくらい引っぱってしまって、その疲労もかなりのもので、ちょっと寝たくらいでは治らなくて(その疲労については「「トムプラス」の休刊について」をお読みいただければ、少しお分かりいただけるかも)、口内炎になったり、湿疹が出たり、胃をやられたり。

30度近い日に暑い、暑いと半袖シャツを着て、夜になってもそのままでいたら冷え込んでまたグスグスいったりしてて、どうも暑いのか寒いのかよくわからないのもよくないみたい。

このまま雨が降ると、ますます体調が悪くなるなあとためらっているうちに、あ〜ら!東京が梅雨に入ってしまった!!!

困った。
東京の梅雨は金沢のいつもだが、金沢には地下鉄というものがない。そもそも、町中を走る電車がない。
ムシムシジトジトの湿気を含んだ熱気に溢れた地下道、行き交う人の傘からはぽたぽた水滴がしたたり落ち、ラッシュの電車の中で押しつけられた隣の人のレインコートはびしょびしょ。厚いコンクリートの屋根の下にいるのに、なぜか濡れネズミ。
空気中の汚れがすべて水滴と化して、ビルに、通りに、人に、容赦なく毒水が降りそそぐ東京の梅雨が、私は苦手だ。
東京へ行くには最悪の季節といえましょう。

どうしよう。
日本対オーストラリア戦があるのは横浜か。7日が雨になったら困るな。 そういえば、そろそろW杯チケットの当選発表が…と鉛色の空を見上げて、フッとため息。
でも「キャバレー」の舞台が始まる、見たい!と慌てて部屋を片づけて、バタバタ荷物を作りかけて、う、衣替えしてない。明日にしよう。

仕事をしないでいい身分になったとたん、これまで仕事を言い訳にサボっていた雑用がドッと押しよせてきて、あれもしなきゃ、これもしなきゃと気ばかり焦るのですが、ひさしぶりに自由になる時間があることに心はホッとして、気が緩んでしまったようです。
気が緩むから、体も緩んでつぎつぎ故障が出てくる。

しばらく健康回復につとめることにします。