『ROUND ABOUT MIDNIGHT』MILES DAVIS

Miles Davis(tp),John Coltrane(ts),Red Garland(p)
Paul Chambers(b),"Philly Joe"Jones(ds)

録音1955〜56年

SRCS 9725



これはマイルス・デイビスが『KIND OF BLUE』より3、4年前に録音したアルバムですが、アルト・サックスのキャノンボール・アダレイがいないのと、ドラムスが変わってるのと、ピアノをビル・エヴァンスではなくレッド・ガーランドが弾いてるってだけで、あとのメンバーはぜんぶ同じ。
『KIND OF BLUE』をかけたあとに、私は必ず続けてこれをかけるという、「この作品を買った方は、これらの作品も買っておられます」的CDです(笑)。

一曲目の「ROUND ABOUT MIDNIGHT」のドドンガドンドンがとても良い。
それから「AH-LEU-CHA」、「ALL OF YOU」とぐんぐんメロディアスにリズミカルに盛り上がっていって、「BYE BYE BLACKBIRD」のマイルスのかすれたトランペットの力強さとさりげない哀愁ときたら、それ以前もそれ以後も聞いたことないくらいの逸品で、「マイルスの中でなにが一番好き?」って聞かれたら、今の私は「BYE BYE BLACKBIRD!」って即答します。

『KIND OF BLUE』との一番の相違点はピアノのレッド・ガーランドとビル・エヴァンスの違いなんですが(私にとっては。サックスは視野にない)、じつはビル・エヴァンスがマイルスのグループを抜けた理由は、黒人ばかりのグループに白人のビル・エヴァンスが入ったことを観客の黒人ファンが嫌って、「レッド・ガーランドの方がいい」と言われて、神経の細いエヴァンスが参ったことだといわれているんですが(真相は知りませんよ〜)、確かにこれを聞くとレッド・ガーランドの方がいい。

じゃなくて(笑)。
レッド・ガーランドみたいなピアノはビル・エヴァンスには弾けないんです。
迫力とか、叩きつけ方とかがエヴァンスはお上品すぎて、レッド・ガーランドのはずむようなリズムと、それが引き出すマイルスのトランペットの自由奔放さが『KIND OF BLUE』では消えてるなあと、私も確かに思います。

もちろん、ビル・エヴァンスみたいなピアノをレッド・ガーランドが弾くことはできません。だからマイルスはピアノを変えたんだろうと思うんですが(笑)。まあ、そう言われてもしかたがないくらい、このCDのガーランドのピアノはマイルスと合っていて、完璧です。

でも「完璧」という言葉は、ものを作る人間にとっては「この先がない」ということです。
4、5年くらいでマイルスがいつもグループのメンバーを入れ替えるのはそのせいでしょうし、「Round About Midnight」をやっちゃったらもうレッド・ガーランドに「BYE BYE」言うしかないよねぇ。って思うくらい「Round About Midnight」はパーフェクトなアルバムです。

まあジャズ・ミュージシャン自体が即席のジャム・セッションや、プロデューサーのアレンジメントで初顔合わせでレコーディングしたりする世界なので、メンバー入れ替えはみんなしょっちゅうやってる当たり前のことなんですが。

マイルスは周囲を観察して批評する才能にも長けていた人で(だからミュージシャンとしてのみならず、プロデューサー的才能も発揮した)、彼の「ビルの演奏にはいかにもピアノという感じの静かな炎があった。彼のアプローチの仕方やサウンドは、水晶の粒や、澄んだ滝壺から流れ落ちる輝くような水を思い起こさせた」という言葉は、私がこれまで聞いたビル・エヴァンスのピアノを一番美しく表現している言葉で、少なくとも「あと二三枚はやりたかったぜ」という未練を感じるんですが(笑)。

ジャズらしいジャズを聴きたいと思ったときに、私は「Kind of Blue」をかけて、続けて「Round About Midnight」をCDテーブルにのせます。
たぶん世界中のジャズ・ファンやマイルス・ファンが「ジャズ」というとき、この辺りを基準点にしてるんじゃないかな?と思うし、ジャズ・ピアノの双璧!でもあるし、ついでにマイルスの「人たらし」としての才能を味わうこともできるという豪華カップリングなので、この二枚は一緒に聴くとさらに楽しさが増すと思います。

このレコード・ジャケットは闇をバックに赤く燃え上がるマイルスで、きっとサングラスと左腕に抱えたトランペットだけは灰の中に残るんだろうなって思うんですが、彼のレコードの中で私が一番好きなジャケットです。

 


2003/4/30

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