現代吟遊詩人名鑑


Arianna Savall 『BELLA TERRA』
Arianna Savall(vocal,arpa,lira),Dimitris Psonis(bendir,saz,buzuki,oud),Pedro Estevan(bendir,palos de agua,caxixi),Julio Andrade(contrabajo)

録音2002年

ARIA VOX AV9833



サヴァールのCDのジャケットにときどき若い女の子がハープを演奏しているところが写っていて、名前を見るとアリアンナ・サヴァールとある。妹さんかな?娘さんかな?と思ってたら、父ジョルディ・サヴァール、母モンセラート・フィーゲラスの間に生まれたお嬢さんで、ハープを弾き、歌もうたい、レコードも出している…と読者の方のハガキから教えていただきましたm(_ _)m。

サヴァールのCDでは中世ハープ(中世の詩人が持ってるようなひざに抱えるタイプ)をこのお嬢さんが弾いて、バロック・ハープ(今のオーケストラ・ハープに形は似ているけど、音は違う)を英国の有名なハープ奏者のアンドリュー・ローレンス・キングが弾いてることが多いようです。

お母さまのモンセラート・フィーゲラスはソプラノの歌手ですが、お嬢さんはふつうの歌い方で…って変な言いかたですね(笑)。つまり学校で声楽を習った者の歌い方ではない。といってアメリカのロック歌手のように歌うのでもなく、中世のトロヴァトーレの歌をうたう古楽アーチストのように自然だけどメリハリのある歌い方をするのでもなく、ただ語るように静かに歌って、技巧を凝らさない、土臭い、とつとつとした素朴な歌い方です。

この『BELLA TERRA』(美しい大地)というCDはこれまでエスペリオンXXIが演奏したことのあるスペインの古謡やセファルディの曲のほかに、スペインの詩人や11世紀ペルシャの詩人オマル・ハイヤームの「ルバイヤート」の詩に自分でメロディーをつけて歌っていたりします。
そうです。彼女はシンガー・ソングライターなのです。

でもサヴァールも「ジャンヌ・ラ・ピュセル」(ジャック・リヴェット監督、サンドリーヌ・ボネール主演の映画「ジャンヌ・ダルク」。衛星でやったので見たら低予算のリアリズム映画で、なんでこんなにまでしてみんなジャンヌ・ダルクの映画を撮りたがるんだろう?とフシギでしょうがなかったが、このサントラは名作です!)の映画音楽を担当したときは自分でも何曲か作曲していて、いかにも中世音楽…てカンジの曲ばかりですが、けっこういいセンいってる…と私は思ったので、環境的にも遺伝子的にも恵まれた方なのだろうと思います。

このCDはサヴァールの個人レーベル「ARIA VOX」から初めてサヴァールが参加していないアルバムとして発売されたものですが、エスペリオンXXIがこれまで作ってきた仲間の輪と音楽への愛が小さい野生のりんごの実のように結晶化していて、とてもかわいらしい。

彼女がハープの弾き語りで歌っているところに、曲によって弦楽器や太鼓の伴奏が付いて、たぶんみんなエスペリオンXXIの仲間たちだと思うんですが。
なによりエスペリオンXXIでもほかの古楽CDでも存在感を示すあのパーカッションの鬼才ペドロ・エステヴァン氏が打楽器を担当していて、それが彼女の曲の魅力を引き立てて素晴らしい効果を上げています。
パパ・サヴァールの替わりに優しく娘を見守る、といった役どころかな?
でも、パパ、うしろでこっそり通奏低音ひいてたりして…(笑)。

ペドロ・エステヴァン氏のパーカッションはエスペリオン以外のCDでもよく聴くんですが(最近とくに多くなってきたような気がします)、クレジットを見ないでもCDを聴いていると「あ、これは…?」とすぐ分かります。けして出しゃばるわけではなく、遠くから響いてきていつの間にか耳に入ってきて、気がつくとほかの楽器と合流して、音楽の流れを支配している。
主役の楽器の流れを損なうことなく自分の存在感を示す絶妙のスタンスを取ることができるのは、彼の音楽への理解が限りなく深く、きっとお人柄もきっといいんだろうな。と思っております。

エスペリオンXXIの愛に包まれてアリアンナ・サヴァールがハープを弾きながら歌う音楽はとても優しく、とても素朴で、海のうねり、風のそよぎ、時の流れのようにただ自然で、聞いているだけで心は楽しくなり、体はホッと安らぎます。

このお嬢さんはハープを弾いたり歌をうたったりする以外に、絵を描くこともお好きみたいで、このCDのジャケットも彼女のかわいいイラストに飾られているんですが、パソコンもおやりになるようで、ご自分でHPを持ってらっしゃいます。

サヴァール一家の広報宣伝活動のインターネット方面は彼女が一手に受け持っているらしくて(なにせ家内制手工業ですから^^;)、 このHPへ行くと彼女の可愛いイラストとともに、彼女やエスペリオンXXIのコンサート予定表が見られます。
それを見ると彼らはかなりひんぱんにコンサート活動をしていて(よく時間があるものだ。あんなにレコーディングをしていて、新しい曲をやるには練習時間だって必要だろうに…)、公演場所は小さなホールや○○カテドラルや××チャーチとあって、ああ、彼らはいつもこういうところで公演してるんだ。行きたいなあ…。

ヨーロッパでコンサート、というとウィーン・フィルやベルリン・オペラを聴きに行くことを思い浮かべますが、アメリカとヨーロッパでは音楽産業のカタチが違っているみたいで(日本は疑似アメリカ型?)、ヨーロッパではCDを出している人でも仲間たちで集まって小さいホールで好きな音楽を奏でて、それをちょっと聴きに行く、というカタチが多く見られるようで、とくに教会はどこも音響効果を考えて建てられているので、というかヨーロッパでは教会はずっとキリスト教のコンサート・ホールだったので(笑)。

まったくキリスト教は広報宣伝活動がお上手です。
音楽担当はバッハ、モーツァルト、ほか「ミサ曲」や「レクイエム」を作曲した作曲家たち。視覚担当はフラ・アンジェリコ、ミケランジェロ、ラファエロなどの中世、ルネッサンス、バロックの画家たちや彫刻家たち。
仏教は音楽は念仏と和讃と声明(しょうみょう)で、視覚は仏像と曼陀羅だし、イスラム教の宗教音楽はトルコのスーフィー教徒(瞑想しながらくるくる回る)くらいで、視覚効果は偶像崇拝禁止とくれば、マーケティング戦略でキリスト教に勝てるわけがありません。電通や博報堂がどんなにお金を積んでも、ぜったいセッティングできない時空を超えた必殺キャストです。

閑話休題。
とにかくこういうところで彼らの音楽を聞いて地元の人や観光客の人たちと一緒に騒ぐことができたら、きっと楽しい時間を過ごすことができて、とっても幸せな気分になれると思います。
これからヨーロッパ方面に旅行予定がある方は、このHPでスケジュールを調べて、時間と場所が合えば、ちょっと近所の教会かホールで彼らの公演を聴きに寄ってみると、楽しい思い出が作れると思います。たぶんそんなに混まないと思うので、当日券があるだろうし、数日前なら前売り券が買えるんじゃないかな。

ところでそのスケジュール表を見ると、今年2005年の秋に彼らがエスペリオンXXIとして日本に来るらしいのです。

行っきた〜い!

しかし彼らいったいどこのホールで公演するのだろう?
Savallの音楽はヨーロッパのお祭り音楽ですが(宗教音楽も含めて)、日本のコンサートホールほどお祭りに相応しくないところはないので(^^;)、 私としては歌舞伎座とか能楽堂とか築地本願寺とか東大寺大仏殿前で公演してほしいんだけど…。

そういえばエゴ・ラッピンやひととよう(漢字が…)の北野天満宮(京都)のコンサートは良かったですね〜! 異様な迫力があって、別世界を作り出していて。…TVで見ただけですが(涙)。

お父さんがヴィオラを奏でて、お母さんがソプラノを歌って、彼女がハープを弾いて合唱して、いよいよ旅芸人「サヴァール一座」らしくなってきました。
公演メンバーにはフェラン・サヴァールなんて若い男の名前もノミネートされていて、おいおい、息子までいたのかい?聞いたことないよ〜。 今まで何をやっていたんだろう。きっと父の命令で武者修行の旅に出て、アフリカやインドを遍歴して音楽のウデを磨いて、やっと戻ってきたんだ。「スターウォーズ」か、「剣客商売」か、はたまたスペインの森山直太朗か(笑)。

もともとこの人たちの正体は旅芸人一座だと、私は睨んでおりました。

 


2005/9/10

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