v.2 ミッテル・オイローパには濃厚な風が吹く・・・
 

 

といいつつ、オーストリアのゆで肉、
ターフェルシュピッツの写真です。

オーストリアのお肉ってやわらかくて
ホントーに美味しいんですよ。

あれに比べたらイタリアのビステッカなんて靴の底っ!

最近ウィーン、ブダペスト、プラハの三都市をまわる東欧ツアーなんてのが人気を呼んでいるようで日本でも認知度が進んでいる東欧ですが、日本人にとって東欧史というのはけっこう「ブラックホール」ではないかと思います。

ご多分に漏れず私も東欧史はさっぱりで、どれくらいさっぱりだったかというと、昔描いた「南京路に花吹雪」という漫画にポーランド人のマサーニク氏というのが出て来るんですが、マサーニクというのはチェコ人の名前なんです。山川の「東欧史」をひっくり返してその辺にあった名前を付けたからこういうミスをする。三代前がチェコからポーランドに引っ越したのよなんて苦しい言い逃れね。とほ。

で、そんな私がハンガリー狂いになったのは「ハプスブルクの宝剣」がきっかけですが、東欧全体に興味を持つようになったのは塚本哲也氏の「ハプスブルク最後の皇女エリザベート」(文芸春秋1992年)を読んだからです。

これは最近の東欧ブームに火を付けた一冊で、大宅壮一賞を取ったノンフィクションです。著者の塚本氏は新聞記者でずっとウィーン駐在員をしていた方です。

この「エリザベート」は「あのエリザベート」ではなく、皇太子ルドルフとベルギー王女の間に生まれた一人娘エリザベートです。

お貴族女が士官さんに恋をして、離婚して、共産党員と再婚してなんてことはどうでもよくて、その生涯を辿っていくと、おお、ハプスブルグ帝国崩壊後のオーストリアの激動の近代史が見えてくるじゃないか!…ってところが塚本氏の着眼点の鋭さです。
ナチスドイツに乗っ取られるわ、第二次大戦後はソ連に占領されてベルリンと同じ運命をたどるところだったわ、いやあオーストリアって大変だったんだなあ。
いろんな国がひしめき合ってる地域で弱小国になるってことはこんなに大変なことなのか。
そんな様々の困難をオーストリアは必死で、皮一枚のところでかわしていきます。このしたたかさはハプスブルクの時の外交の蓄積のおかげかもしれません。

その本を読んでから、ミュージカル「エリザベート」の仕事やなんかで、オーストリア、ハンガリー(ちょっとだけ)、チェコ、ドイツに行きました。

ミッテル・オイローパ(中欧:昔「東欧」といっていた地域を冷戦の終了後、ヨーロッパの真ん中だからとこう呼ぶ)にはなんて濃厚な風が吹くんだろうと驚きました。
積年の対立や抗争の結果、ありとあらゆるところに対立の痕跡があり、ありとあらゆるものが対立の萌芽を含んでいて、空気がピンと緊張しているのです。宗教も民族も苦手の甘チャンの日本人の私は腰を抜かさんばかりに驚いてほうほうの体で帰って来ました。

今ヨーロッパでは、「国境」を無くそうという試みが始まっています。
方向性に文句を付ける気はありませんが、何百年に渡る争乱を繰り返してこれだけ血を流さなきゃ気がつかなかったのかおまえらはというくらい西洋史は流血の歴史です。自分で選んでおいてなんですが、夜中に宗教戦争とか19世紀帝国主義の本とか読んでるとあまりの悲惨さと愚かしさに吐きそうになります。それなら読まなきゃいいんですが。どうせ私はばかです。
サッカーでクロアチアに負けても、国境線を挟んで押したり引いたりの駆け引きを何百年もしてきた国に日本が勝てるわけないだろ、オレたちゃラインディフェンスが甘いんだ〜と叫ぶ人間です。

まあ良し悪しは置いておいて、幸せなことに日本人はそういう修羅場を経ないで今に至ってるってことをそういう修羅場を経た結果今に至る国々、つまり西欧と対処する時は考えた方がいいんじゃないか。それを考えないと日本は間違った方向に進んでやがて世界からおいてかれるぞと塚本氏はこの本で悲鳴を上げています。

すごく読みやすくて刺激的で面白い本ですが、読んでるあいだずっとのどもとにナイフを突き付けられているようでコワい本です。

 


「ハプスブルク家最後の皇女エリザベート」(塚本哲也)文芸春秋社1992年4月30日発行

 

 

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