v.1 ハンガリーの地平線
 

私が「ハンガリー狂い」になったきっかけは藤本ひとみ氏の「ハプスブルクの宝剣」を読んだことでした。

政略と陰謀に明け暮れる18世紀ヨーロッパ。男子継承者がいないためオーストリア・ハプスブルクは王女マリア・テレジアを皇帝として立てる。牙をむき出す近隣諸国と必死で戦う彼女を補佐し愛する「過去を喪った」1人のユダヤ人。

とにかく出てくるキャラクターがカッコイイ。

 
 

まず、プリンツ・オイゲン

実在の人物で、「ブルボンの封印」にも出てくるルイ14世の愛妾のオランプがサヴォア公国に嫁いで産んだ息子。ルイ14世の息子だと密かに語られた。ところが生まれつき短躯で足が曲がっていて見かけも貧相で、きれいなもの大好きのルイ14世はその容貌のせいかオイゲンを疎んじた。
彼はなんと敵国であるオーストリア・ハプスブルクの宮廷に活躍の場を求め、神聖ローマ帝国の将軍として西進してきたオスマン・トルコの軍を蹴散らし、母国フランスとも戦い、その軍事的才能を開花させ「救国の英雄」とオーストリア人から慕われる。

ウィーンに彼の建てた宮殿があるんですが、イタリアのパラッツォふうですごく趣味がよくて、ここに美少年を囲ってたのかなあ、うん、似合うぞなんて思いながら歩き回りました。
彼は女性とはお友だちにしかなれない人。

軍国主義者で男性至上主義者で評判の悪いプロイセンのフリードリヒ大王ですが、この小説では弱小国の支配者で、成り上がるために命がけの大バクチを打つ「孤独な挑戦者」として描かれます。

     

しかし何てったって、ハンガリー貴族のバチャーニ

とにかくかわいい〜!スラブと東洋が混じったような容貌ですが、あの可愛さと血の気の多さからつい紅顔の美少年を想像してしまうんですねえ。このシュババッと燃えるマッチ棒的性格が典型的ハンガリー性格だとはあとで知ったことです。

マリア・テレジアの旦那様、フランツ・ロートリンゲンも不思議なキャラクターです。
「まつりごと」には一切口を出さず、趣味の石集めでお金を稼いで経済的に苦しかったマリア・テレジアを助けて「内夫の功」と讃えられる。

 

 

 

主人公のエドゥアルトは自分の持たないもの、金髪碧眼、柳のようにしなやかに生きていく生き方、愛する女などをフランツがすべて持ってるのを見て憧れと対抗心を持つんですが、「ベルセルク」のガッツとグリフィスの関係にも似てつい深読みしてしまいます。

主人公エドゥアルトは「仮面の男」です。

黒い髪、黒い目。そして失った片目より深い心の傷。
ユダヤ人ゆえに故郷を追われ、ユダヤ人であることを自ら捨てて、身分を偽りオーストリア宮廷に仕える。命の恩人、親友の妻を愛しながら、その親友にも憧れ愛する。オーストリアの政治家として自分の家族であるユダヤ人を迫害する立場にまわり苦悩する。

安住の地を持つことなく、境界線(マージナル)をさまよう憂愁のユダヤ人が黒髪をなびかせてはるか見やるのはハンガリーの地平線。(隣りにバチャーニが立っています。)

そこはフンのアッチラやオスマン・トルコが攻めてくる時必ずこの辺りを通ったという東と西のつなぎ目。しかもスラブやゲルマンや様々な民族が入り乱れてモザイク状に国を作り、自らの縄張りを大きくしようと戦争、合従連衡、征服と隷属を繰り返す今も昔もウルティメイト・デインジャラス・ゾーン。

エドゥアルトの運命とハンガリーの地平線が重なって、その歴史的意味、歴史的情緒、歴史的ロマンがどど〜んと胸に迫ってきて、あれ以来いつかこの目でハンガリーの大草原が見た〜い、大草原を吹く風に吹かれた〜いと言い続けています。

ブダペストまではなんとか行ったんですけどねえ。
地平線はまだ見ていない。悔しいなあ。
どうせ何てことない平べったい草原なんだろうけどさ。

 


以上、いろいろくだくだ書いたことはすべて無用の長物です。
きれいでロマンチックで夢のような別世界で絢爛豪華な夢を見たい方は是非この小説を読むべし。

「ハプスブルクの宝剣」(藤本ひとみ)文芸春秋社1995年7月20日発行
文春文庫でも出ています。

 

V.2も読んでみる?

 

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