昔、ロスアンジェルスに三人の刑事がいた。

バド・ホワイト(ラッセル・クロウ)

粗野でマッチョですぐ犯人を撃ち殺すし禁じられているリンチにも手を貸す暴力刑事だが、幼い頃の経験から傷ついた女を見るとほっておけない。高級娼館の「ヴェロニカ・レイクに似た女」リンに犯罪の匂いを嗅ぎながら深入りしていく。

エド・エクスリー(ガイ・ピアース)

出世のためには同僚も平気で売る「優等生」刑事。それも立派な警官だった父を超えたいという願いから。正義と出世は両立しないことを知った時、対立していたバドと手を結び二人で壮絶な銃撃戦へ飛び込んでいく。バドへの対抗心から関係を持ったリンだが、本当は愛しているくせにバドと共に去る彼女を追おうとはしない。組織に残る決心をした彼は痛ましくも、悲しい。この役を少年気が抜けきらないガイ・ピアースがやるから、イヤな坊やだけど可愛い、という不思議な魅力を持つキャラクターになった。

ジャック・ビンセンズ(ケビン・スペイシー)
ハリウッドのTVドラマの監修をする「スター刑事」。華やかな誘惑の中を泳ぎ回りながらも警官の本分が忘れられない生真面目さ。ケビン・スペイシーがうまいせいか、とても存在感のある役だった。

 

「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きてる価値が無い。」と昔のハードボイルドは強がりを言っていましたが、アメリカ社会の反映なのか幼年期体験のせいなのか、ジェームズ・エルロイの小説の主人公は「オレはこんなにダメな男なんだ〜」と叫びながらすべてを破壊しまくるようなところがあって、いやあ、時代は変わったんだなあと思います。

ジェームズ・エルロイの小説「L.A.コンフィデンシャル」は「ブラックダリア」「ビッグノーウェア」「L.A.コンフィデンシャル」「ホワイトジャズ」からなる「L.A.四部作」の一つで、L.A.の警察官やギャングたちの人間模様が複雑に絡み合いながら40年代、50年代のアメリカの社会や組織の暗黒部を浮かび上がらせるという構成です。(映画でエドに殺された人も小説では生きててまた出たりしてます。)

それにしても、見事な脚色です。
小説の魅力を損なうことなく、その上に光と影の映像美、背広姿のダンディズム、妥協すること無いリアルなアクションシーンが加わったことで、小説以上に立体的になり魅力が増しました。

映像美なんて口で説明できるものではなくて、見ていただくしかないんですが、この映画の構図や人物の動きはすべて横広の映画館サイズで緻密に計算されていて、ビデオだと違うものになっちゃうんじゃないかと心配です。例えば人物が二人壁に寄りかかってえんえん話すシーンがあるんですが、これTVサイズだとどこに焦点合わせるんだろう。

闇と夜がとても魅力的な映画です。
50年代のラペルが広くてタレッとした背広がとてもステキな映画です。
その背広に身を固めた男たちの集団が光と影の階段を駆け下りるところとか、ラストの銃撃戦のシーンとか、背広を着ているからあの格好良さが出るんじゃないかと思います。

「タイタニック」が無かったらアカデミー賞を取れたろうと言われたそうですが(キム・ベイシンガーの助演女優賞と脚色賞のみ)、う〜ん、どうかなあ。私の好きな作品はあんまりアカデミー賞が取れないので(「スターウォーズ」とか「バットマン」とか「ダイハード」とか)これも無理だったんじゃないかなあ。

このカーティス・ハンソンという監督の撮った高村薫映画を見てみたいななんてちょっと思いました。

「コンフィデンシャル」とは「機密書類」という意味です。世の中の真実はいつも明かされないまま闇から闇へ葬られていくのです。

「ブラックダリア」「ビッグノーウェア」「L.A.コンフィデンシャル」「ホワイトジャズ」
(ジェームズ・エルロイ) 文芸春秋社刊
文庫も出ています。

 

 
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