イタリアガイドブック

名所旧跡の解説はたくさん出ているガイドブックに任せるとして、
ここでは私がイタリアを旅行した時にその土地を理解するのに役立った本、
あるいはその土地に思い入れをするきっかけになった本を
これまで読んだ本の中からいくつか挙げたいと思います。
まったく個人的なものなので、これを参考に
イタリアを旅行しようなどとは思われませんよう。

 
ゲーテ
「イタリア紀行」岩波文庫

18、19世紀にイギリスでは貴族の子弟が教養の仕上げとしてイタリアに長期旅行する「グランドツアー」というのが流行ったそうだが(映画「眺めのいい部屋」はその一例)、ドイツ人も負けず劣らずイタリアが大好きだ。若い頃イタリアへ旅行した父親からイタリアの話を聞かされて育ち小さい頃から「君よ知るや南の国」だったゲーテは、1786年念願のイタリア旅行に旅立つ。ブレンナー峠を越えてにヴェローナに入り、ヴェネツィア、ローマ、ナポリ、シチリアと回ったゲーテは、いろんなものを見、いろんな人と会い、いろんなことを考える。月の光の中で人気のない荒れ果 てたコロッセオを見るなんて羨ましい体験もする。この地で私はいかに幸せだったことか。それを心の中に持って帰る。幸せは私の中で成長し、増加するだろうと書いたゲーテの感慨は、二百年たった今も変わっていない。

 

 


石鍋真澄
サン・ピエトロが立つかぎり」吉川弘文館

サン・ピエトロ寺院を出て東へ歩き、ポポロ広場のカフェに座ってエスプレッソをすすりつつ目を上げるとポポロ門が目に入る。二百年前フラミニア街道を下って胸躍らせてこの門をくぐりローマへ入ったゲーテの姿が今も目に浮かぶ。
当時ローマはバロックの最盛期。宗教、文化の最先端。
美術史家でベルニーニやルネサンス前期の画家の著作もある著者が古代ローマ、中世、ルネサンス、そしてバロックの花咲くローマを、モニュメントから路地の細部に到るまで「建築史的視点」も交えて解説してくれる『ローマガイドブック』。古代ローマからイタリア人の天才は建築を抜きには語れないが、この本は「永遠の都」ローマを建築史的視点から解明するだけではなく、それによって建築が人間にとっていかに大事かということも教えてくれる。「建築的視点」を完全に欠いた日本人の手によってこういう『名著』が書かれるなんて皮肉なのか、必然なのか悩んじゃうよ。

 

 


マルグリッド・ユルスナル
「ハドリアヌス帝の回想」
白水社

ヴィラ・アドリアーナの「カノプス」


ローマに滞在してちょっと郊外に出てみようかなと思う人には、観光名所として「ヴィッラ・デステ」「ヴィッラ・アドリアーナ」がお勧めだ。「ヴィッラ・デステ」はローマの夏の暑さを逃れるために建てられた後期ルネサンス或いはバロックのパラッツォ(宮殿)で、地形の高低差を利用した噴水のあるお庭が絶景だ。観光名所に付き物のハデハデしさはなく、とにかくうっとり、居心地がいい場所。(ついでにこの宮殿とお庭を作ったのはチェーザレ・ボルジアの妹ルクレチアの息子の「エステ枢機卿」)「ヴィッラ・アドリアーナ」は古代ローマのハドリアヌス帝が晩年自分が隠居するために広大なローマ帝国を転戦した記憶を集めてローマ郊外に作った『町』の遺跡で、今は石の転がる広大な運動場。自分一人のためにこんな無駄 遣いをするなんて!と怒りたくもなるが、この本を読むと当時の帝国の文化水準やハドリアヌス帝の屈折を理解できるような気もする。美とか文化は危険でエゴイスティックで常に滅びと背中合わせなのだ。もちろんユルスナルの文才は素晴らしい。それによってハドリアヌスと寵童アンティノウスの時を超えたラブストーリーになった。バスだとツライが、お金があればタクシーを使って一日で両方回ってローマに帰ってこられる。しっかり交渉すればボラれる事もない。がんばれっ。

 


クリストファー・ヒッバート
「メディチ家その勃興と没落」リブロポート

フィレンツェのメディチ家三代、コジモ、ピエロ、ロレンツォの人間模様はそのままフィレンツェの歴史でありイタリア・ルネッサンスの興亡史だ。一介の薬屋から金融業に乗り出しフィレンツェの名士に成り上がったコジモは、表向き民主制をとるフィレンツェの町を巧妙に支配しつつ、集めた富と権力で文芸復興を花開かせる。彫刻家ドナテッロとの交友は感動的。「痛風病み」ピエロの時代は短く、三代目ロレンツォはローマ法王や政敵や時代の流れと戦いつつフィレンツェを繁栄をさせるが、その浪費はメディチ家の没落を用意もする。ロレンツォは醜男だが女にも男にもすっごくモテたろうと思う。なんか危なっかしくて放っておけないのだ。パトロンにも才能がいるのだ。メディチ家三代がいなかったらイタリア・ルネッサンスはずいぶん違う形になってたろう。そのあと親戚 からバロック・メディチ家が生まれるが、趣味が悪いのであんなもんメディチ家とは呼びたくない。

Santa Maria del Fiore

 
町中を埋め尽くすメディチの家紋
「六つの丸薬マーク」だけは趣味が悪いと思う。

おまけ
『Tazza d'Oro』
Via Degli Orfani 84

ローマのパンテオンの近くの裏道の角っこにある美味しいエスプレッソを飲ませる店「タッツァドーロ」。近所のオジサンやビジネスマンがひっきりなしにやって来てエスプレッソをくいっとひっかけてウェイターや回りの人と話してあわただしく去っていく。ここのカウンターでエスプレッソを飲めばあなたもイタリア人。

ローマのレストランで食後にエスプレッソを頼むとTazza d'oroのカップに入って出てくることが多い。おいしい。

今回はローマ、フィレンツェ中心。
ヴェネチアやポンペイその他、またの機会がありましたら。


2000年7月2日

 

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