エリザベート

◆原作脚本 ミハイル・クンツェ

2002年10月11日発売
講談社漫画文庫
ISBN4-06-360-386-5
550円(税別)

 

初出

「歴史ロマンDX」(角川書店)
1995年冬の号、1996年春の号



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オーストリア・ハプスブルク家の王妃エリザベートと、彼女に恋した死(トート)の物語。
原作はウィーンで初演され、宝塚が公演して大喝采を博した名作ミュージカルです。

◆「エリザベート」の解説がここにあります。

 

 

 

 

 

 

古田新太「トート」も、ローリー寺西演ずる「キャバレー」版「エリザベート」も企画にも上らなかったようで残念ですが(笑)、宝塚で上演されて日本のミュージカル・シーンに旋風を巻き起こしたウィーン発の傑作ミュージカル「エリザベート」が、2002年10月から再び宝塚で公演されました。

宝塚復活公演が決まったあと、友人に「 知らない人に読ませようと思ったのに、売ってないのね」とか、「先生の『エリザベート』を探したのに手に入りません。どうすればいいんでしょうか」とかメールが届いて、誠に申し訳ありませんでしたm(_ _)m。
しばらく前から角川から出ている「エリザベート」の単行本は品切れになっていたようです。

「エリザベート」という漫画が最初に載ったのは、角川書店から出ている「歴史ロマンDX」という雑誌でしたが、これは当時角川から出ている漫画雑誌とは購買層がちょっと違いました。

最初増刊として出され、不定期でポツポツと発刊されるようになったこの雑誌に「歴史ロマンDX」という名を付けることが決まった時、女性の作家や編集者はみんな「5万部以上売れなくていいのか?!」と大反対しました。
この雑誌のキーワードは、「日常から離れてしばらくのあいだ夢を見られる、フワンとしてポワポワとキャンデーのように甘くて後を引く読後感」で、そんな名前を付けなくても歴史ものが好きな人はきっとこの雑誌を買ってくれるし、それ以外の人に買ってもらうためには、もっとフワンとしてポワポワした名前をつけた方がいい。と女性たちはみんな思ったんですが、少女漫画を読んでないのに少女漫画の編集をやっていらっしゃる管理職の男性方にはこのフワン・ポワポワ感が分からなかったらしく(それは口では説明できない「感覚」ですから)、「歴史もの」という名前をつければ「歴史」が好きな人が買ってくれるだろう…と「形」の方を信じたようです。

そんなわけで「歴史ロマンDX」と銘打たれたこの雑誌は、当初から部数アップと戦う宿命を背負っていました。

漫画業界にはいくつか黄金律があります。
ひとつは「売れない雑誌は潰れる」。
もうひとつは「アンケートが悪い作品は切られる」。

面白い漫画を載せればその雑誌は売れるはずですが、それは理屈。
一定数の読者にいつも買ってもらうためには、「これがあるなら○○円出そう」と思わせる確実な作品がいつも載っていることが必要です。
たった一回でも「なんだ、つまらない。買ってソンしちゃった」と思われたら、次は面白いかもしれないとまた買ってくれることを期待する資格は、編集者にも漫画家にもありません。
むかし出せば売れる、という時代が漫画界にあった、ような気がします。
でもそれは単なるバブルで、今の出版状況はそれほど甘くないと、作家や編集者である前に少女漫画の一読者である私たちはみんな認識していました。

私はどちらかというとバクチ体質の不安定性が売り物で(笑)、確実な読者数を見込める安定した作品を描くのには向かない作家だと思うんですが、「歴史ロマンDX」は新人作家が多くて、新人にそういう計算はできないし、また、そういう計算をさせてはいけません。
まだ自分が何を描けるのか知らない新人には、描きたいものを思いきり描かせなければいけない。
私もそうやって育てられましたから。
個性的で才能ある新人さんたちが育ってヒット作を連発するようになるまで、ベテランは雑誌の基底トーンを作るほうに回ることにしよう。

漫画が好きな、わりとコアな漫画ファンが読んで面白い「歴史ロマンDX」のような雑誌は当時貴重で、そういう読者たちが「歴史ロマンDX」は面白いからとずっと買ってくれるようになってくれたらいいな、と思っていました。

「エリザベート」が載ったとき、この雑誌の読者と宝塚ファンが重なることは分かっていたし、宝塚での大成功もあって、あの時「歴史ロマンDX」を知らなかった方にもかなり購買層は広がりました。
この雑誌は不定期刊としてはけっこう売れていて、「作家性」が強いせいかコミックスの売り上げもよくて、「売れないから潰れた」わけではないのです。
なぜ潰れたかというと、まあいろいろ事情はあるのですが、結局、会社にやる気がなかったから…というようなことかな。

この頃、もう一つ私が好きだった雑誌は「セリエ・ミステリー」( 白泉社)です。
山岸涼子さんの「ハトシェプスト」とか、青池保子さんの「修道士ファルコ」もこれに載ったのでは…?
レディースと思われてソンをしていたようですが、作家の「これが描きたい!」という熱意が伝わってくる作品を載せている雑誌で、ああ、この中に混じって私も描きたい!と読んでいてゾクゾクしました。
こちらは「ホンを売る」作品と好きに描かせて「単行本を売る」作品を雑誌の中でちゃんと設定していたので、ここでだったら私はもっと気を使わずに漫画を描けるかもしれないな。

この雑誌は路線変更ののちに「メロディ」になったんですが、まったく違う雑誌になりました。
ご存知のように白泉社は定期的に作家を一新して雑誌を低年齢化するので、年上の漫画ファンを狙う雑誌を出すと「自分たちの方針は間違ってない以上、そこに読者はいない」というような本を作るみたいで、見ていてシンドそーだなぁと思います。

むかし漫画に夢中になっていた人たちが「今、読むものがない」という声をよく聞きますが、そういう雑誌を出してもけして売れないわけではないのです。
そんなに売れるわけではないにしても、単行本の売り上げを加えてコントロールして、面白い本を作ればやっていけるはずなんですが、そういう雑誌が続かないのは、雑誌を作っている人たちがそういう漫画雑誌を読みたいと思っていないから。そして、そういう雑誌を作りたいと思っている編集たちが窓際に追いやられ、みんな辞めていくのはいったいなぜなんだろう。
たぶんこれは出版社だけじゃないんでしょうが、どんな会社でも社員が自分の給料はお客さまのお財布から払われているということを忘れて、「会社」からもらっていると思い始めたときから、その「会社」はゆっくりと長い年月をかけて腐り始めるような気がします。

宝塚の再演が決まったとき、角川書店には漫画「エリザベート」の「版」が残っているはずなので、それをちょっと印刷所で重版をかけて宝塚関係の書店に並べれば、「エリザベート」は宝塚ファンが買うので、捌けることは分かっていました。VISAが宝塚と組んでいるのはそのためなんですから(笑)。

どうして重版しないんだろう?漫画家が商売してるのに、出版社が商売しないのはなぜだろう。大した利益にならないからといわれればそれまでですが、地道に小さな利益を積み上げていって、その中からヒットが出るのを待つ。ヒットばかり狙っていたらその会社は潰れると、製造業もサービス業も最初に教えると思うんですが…?
でも「歴史ロマンDX」の編集者はもう角川の漫画部門に残っていないし、まあいいやと思ってるところに、講談社のコミックスの方が声をかけて下さいました。

漫画文庫の読者層は主婦など、今の漫画雑誌を買わない(買えない?)方が多いそうで、歴史漫画を好む方も多いとかで、それではお願いします。と言ったら、それから講談社の編集さんはたった一人で宝塚に連絡したり、いろいろなところに連絡して獅子奮迅の大活躍をして下さいました。

この作品は著作権が入り組んでいるのでものすごく大変なのです。
その上、ウィーンのオフィスの方々が夏のバカンスに入って連絡が取れなくなってしまったそうで、本当にお疲れになったことと思います。
それにもめげず編集さんは努力してくださって、おかげさまでこの本が久しぶりに本屋さんに並ぶことになりました。編集さんと読みたいと思って下さる方々に、本当にありがとうごさいます。です。

今回の講談社文庫版では、「森川さんは宝塚版を見る前に作品を描いているから」とあとがきにも書かれている通り、小池先生のご意向で、原作ミハイル・クンツェ、漫画森川久美になっています。でもウィーン版「エリザベート」がこういう話だったわけではありません…(笑)。

今回の文庫の表紙のイラストは「エリザベート後編」が載った「歴史ロマンDX」の表紙です。
じつは角川のコミックスを出す時も編集さんに「表紙はこちらの方がいい」と言われたのですが、 私はエリザベートがドレスの長いすそを引いている前編のカラー表紙が好きだったので、それを使って前後つながった表紙のデザインにしていただきました。

最初の4pのカラーが白黒になってしまったことは予算の関係で、どうかお許し下さい。
また、スルドイ方々からのご指摘の通り(^^;)、講談社文庫は本来はとても印刷が良いのですが、この作品は著作権が入り組んでいて(それがゆえに私は二度と日の目を見ないだろうと思っていたのですが)、講談社文庫の方が宝塚やウィーンサイドに精力的にアタックして下さって、しかしヨーロッパの著作権は厳しい上に、ウィーンサイドがちょうど夏のバカンスに入ってしまって、そのために返事が遅れて、宝塚公演の日にちとぶつかってしまい、印刷が押せ押せになってしまいました。
細かい線が飛んでいるうえに、レトラトーンの1210、1042などもほとんど出ていないページがあって、原画とはだいぶ違います。でももともとこういう原稿だったと思えば気にならないし、セリフは追えます(笑)。
権利や発売スケジュールは漫画家や編集者にはどうしようもないことなので、いろいろ権利が入り組んだ中で出版された本ということで、どうかお許しください。
ルドルフの涙がまた本屋さんに並んで人に読んでもらえるというだけで、描いたものとしては講談社の編集さんや小池先生や関係者の方に本当に感謝しています。

そういうわけで、もしまだ読んでないお友達がおられましたら文庫本「エリザベート」を買ってプレゼントして下さい(笑)。

 

 

 

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