ローマ・フィレンツェ・ボローニャ


5. 列車の旅

4月14日(水)
朝食のクロワッサンとコーヒーを頂き、いよいよホテル「ドナテッロ」とお別れだ。
今日は、イタリア鉄道で列車の旅である。
ローマのテルミニ駅からフィレンツェ駅まで、特急ユーロスターで1時間半。
切符はすでに用意されている。(全席指定)

しかし、イタリアには改札口というものがない。
切符がなくても、駅構内に自由に出入りできるから、面白い。
で、切符は、自分で自動刻印機に差し込み、ガッチャンと刻印するのである。
黄色いボディの刻印機は、あちこちの柱にくっついているのだが、
慣れない我々旅行者は、ともすれば忘れそうになる。
ちゃんと刻印していないと罰金だと、ガイドブックには書いてあるので、大変である。
「ガッチャンは、久保さんの係りね」ということになってしまった・・・。


左右どちらに刻印しても可。左下が刻印された文字。日時と駅名が入っている。


ほぼ時間通りに、列車は動き始めた。
テレビの「世界の車窓から」ではないが、列車の窓から見る異国の風景は、
やはり心踊るものがある。
ローマ〜フィレンツェ間は、内陸部を行くので海は見れない。
でも、田園風景とか、牧歌的ななだらかな山々と点在する石造りの家を見るのもいい。
絵になる風景がいっぱいだったが、残念なことにうまくデジカメで撮れなかった。
座席が、進行方向と逆向きだったのだ。
「あ、撮りたい」と、構えたときには、
もう被写体は、はるか後方へ飛び去ってしまっている・・・。

半分くらい走ったかなと思う頃、
突然、列車がスピードを落とし、止まってしまった。そして、それきり動かない。
「???」
何のアナウンスもなしに、止まったきりだ。
(ま、説明されても、イタリア語は分からんけどね)
でも、乗客は騒ぐ様子もなく、平然としたもの。よくあることなのだろうか。

結局、1時間ほどしてやっと動きだした。何事もなかったかのように・・・。
日本で、新幹線が1時間も遅れたら、大変なことなのに。
おかげで、フィレンツェに着いたのはお昼前だった。

とりあえず、駅に荷物を預けて、街に出る。
駅のすぐ前が芝生の広場になっていて、人々が寝転んだりして、くつろいでいる。
ローマと違って、ゆったりとした印象。
そして、目の前に立派な教会が、ど〜〜〜んとそびえていた。
サンタマリア・ノヴェッラ教会である。
空に向かってすっくと伸びた、とんがり屋根の鐘楼が絵になるなぁと思った。



さて、フィレンツェといえば、やっぱ、ドゥオーモである。
「情熱とトマトの冷製スープ」
じゃなくて、「冷静と情熱の間」でしたっけ?
あの映画の予告編で、空から見下ろしたドゥオーモが出てきて、すごく印象深い。
何はさておき、アレを見たい!
河ちゃんも気持ちを分かってくれて、案内してくれた。

駅からドゥオーモへ向かう途中、メインストリートに面して、
今夜から泊まるホテル「ボンチアーニ」があった。位置の確認だけする。いい場所だ。
そして、歩くにつれ、街並の向こうに見えて来た、丸い屋根。
想像以上に大きい!!

「これが、アレか・・・!」


曇り空が、かえって雰囲気を出しているよね。


すぐにでも、あのテッペンに登りたかった。
が、本日のメインは、ボローニャ絵本展の初日に顔を出すことにある。
目的を忘れてはいけない・・・。


お昼は、家庭料理のお店「マリオーネ」に入る。
「ビアー」とビールを頼むと、ウエイターが「ビアラ」と復唱した。
「ビアラ」というのか。イタリア語の本では、「ビッラ」と書いてあるのだが。

出て来たビアラには、なんだか渋いおじさんの絵が描いてある。
人生のせつなさを噛みしめているような、暗い表情でビアラを飲んでいるので、
「なんで、こんな絵なんだ?」
「何か有名な人なんだろうか?」
「それにしても、渋すぎだよね〜」などと盛り上がる。


私達の間では、「おじさんビール」と呼ばれる。


パスタも頼んだが、これが固い。
アルデンテどころじゃないよ、口の中でぺきぱき言ってるよ。
いくらなんでも、固過ぎだろう?

しかし、「チキン&ポテト」は抜群にうまかった。
鶏のもも肉を煮込んだものだと思うが、とにかく柔らかくてジューシー。
ポテトも素朴でうまい。
「これが、今までのなかで一番の料理じゃない?」と、河ちゃんが三ツ星をつけた。



満腹になったところで、さあ、ボローニャへ出発だ。
が、ひとつ問題があった。実は、列車の切符の買い方がよく分からない・・・。
とにかく、切符売り場を探す。一番早そうな列を見極め、後ろに並ぶ。
そして、待っている間にスケッチブックの紙を1枚やぶり、行き先を書く。
あと、希望の時間と人数を書いて、見せることにした。
ちゃんと理解してもらえるだろうか、ドキドキだ。

順番が来て、窓口の女性に紙を差し出す。
すると、なにかさらさらと書いて、戻してよこす。
「ん?」
これがさっぱり分からない。何を書いたのだろう? 分からん文字が2行。
「これのどちらかを選べってことだよ、きっと」と河ちゃん。
「そうか。でも、分からないよ。どうする?」
「とりあえず、上の方を選ぼう」
で、上に丸をつけて提出すると、切符をくれた。やれやれ。「グラッツェ」

後で気がついたのだが、彼女は、発車時刻と列車の種類を書いてくれたのだった。
「14:10 IC」という風に。(ICは特急、ESは超特急かな?)
でも、いっちゃあなんだけど、変な字なので数字に見えなかった・・・。
なにしろ、「14」が漢字の「仏」に見えたくらいだ。
フランス行きかと思ったぜ。



発車時刻になっても列車が現われない。
それどころか、何番線に到着するのかも表示されない。どうなってんの?
イタリアの鉄道は、これが普通なのか?
ところで、ICの2等は自由席であった。(ESにすれば良かった・・・)
「でも、ここは終点だから、みんな降りて席は空くはずだよね」
そう、それが甘かった。

遅れてた列車がやっと到着。乗客が降りる・・はずが、ほとんど降りない。
「え? なんで?」
この駅は、終点ではなくて、折り返し点なのであった。
ローマなどから来た列車は、折り返して、ミラノやベネチアに向かうのだった。
あわてて乗り込もうとするが、どの車両も満杯で、入れない。
焦った。空いてそうな車両を探して、走り回る。
ようやく乗り込めたが、もちろん席はない・・・ガ〜〜〜ン。

ドア付近は立っている人で一杯なので、奥に入り、通路で立って行くことにする。
座っている人達が、じろじろとこっちを見ている。
通路に立つのは、いけないのだろうか?
「ま、いいや。文句言われたら、出て行こう」と開き直る。
しかし、なかなか発車しない。車内は暑いし、足は疲れるし、イライラする。

1時間半くらいか、もっとかかったかも知れない。
ボローニャ駅に着いた時、私はもう、くたくた。疲労の極致。
だが、まだ、絵本展の会場までは、バスがある。
すでに5時40分になっていた。たしか、絵本展は6時半までのはず。ぎりぎりか。
駅の売店でバスの切符を買う。1枚1ユーロ。
どこへ行くのも同じ切符のようである。
のりばが分からず、手間取った。


バスの切符、原寸。これも自分で、車内の機械で刻印する。


バスで10分くらい。とうとう、絵本展会場にやって来た!
時計を見ると、6時10分。時間がない。
入場するのに、一般の人はチケットを買わなくてはいけないが、絵本展に応募した人には、
フリーパスのカードが郵送されて来ていた。
ところが、私のカードがどこへ行ったか、すぐに出て来ない。
仕方ないので今日は、河ちゃんだけ入場してカタログを買ってきてもらうことに。
彼は、すばやく入って行った・・・。

私は、どちらにしても疲れ果てていた。動きたくなかった。
外のベンチで腰掛けて、待っているのが精一杯だった。
目の前の出口から、帰りの客がぞろぞろと出てくる。彼は、間に合っただろうか・・・?
と、急に、アメリカ人らしい母娘が、私に声をかけて来た。

どうやら、写真を撮って欲しいと言っているらしい。カメラをよこしてくる。
「オーケー、オーケー」
ふたりでポーズを取ったところをパチリ。
調子にのって、「ワンモア」と、もう1枚パチリ。
「サンキュー、バーイ」と、明るく去って行く親子であった。こちらも手を振る。

やがて河ちゃんが出て来る。
分厚いカタログを買って来てくれた。グラッツェ。
帰りのバスは、めちゃくちゃ混んでいた。
そういえば、バスの切符、60分間有効で、どこでも何回でも乗れるらしい。
で、さっきの切符で帰る。
でも、誰も検札もしないし、ただ乗りしても分からんだろうな。
イタリアって、おおらかというか、大ざっぱというか・・・そういう国なんだね。


カタログです。真っ白い表紙なので、黒バックでスキャンしました。


あとは、とにかく「疲れた」を連発する私・・。実際、気持ち悪くなるくらいだった。
旅の疲れが、どっと出たのかもしれない。
河ちゃんには、申し訳なかった。
フィレンツェに戻り、ホテルにチェックインしたら、夕食を取る元気もない。
とりあえず、ベッドに横になる。
(相棒は、マクドナルドのハンバーガーで夕飯を済ませた。ごめんね)

最悪の日だったけれど、私は頭の中で、あるストーリーを想像していた。

先程、絵本展会場で写真を撮ってあげたアメリカ人の母娘・・・
実は、あのお母さんは、アメリカの大手出版社の編集長だったのである。
明日、私が作品を持って売り込みに行くと、彼女が笑って話しかけてくるわけだ。
「あら、あなたね。昨日はありがとう」
とか言って、絵を見てくれる。もちろん大好評である。
とんとん拍子で話が進み、とうとう絵本がアメリカから出版されるのであった。


さっそく、河ちゃんに話してみると、
「うんうん、いいんじゃない。良い方向へイメージするのは、大事なことなんだよ。
でも、久保さんには悪いけど、
アメリカでの絵本出版は、僕の方が先だよ。しかも、日本に逆輸入されて、大ブレイク!」
なんて言って、笑ってる。
「あ〜〜っ、ずるいなぁ。オレが先だって」

勝手な想像をしながら、夜は更けて行く・・・。



6. ボローナ・フェアラ

4月15日(木)
7時起床。夕べ、早めに寝たので、元気回復。「ふっかぁ〜〜つ!」
朝食後、相棒の希望で、中央市場に行ってみる。

なんでも、7年前に彼がフィレンツェを訪れたとき、この市場の中で、
美味しそうなものを発見したという。
それは、店の天井から大きな肉の塊がつり下がっていて、
おじさんが目の前で、その肉をナイフで削って丸いパンにはさんでくれるというもの。
だが、それの名前が分からなくて、
「これこれ」と指さしてみたら、おじさんが一言。
「サンドイッチ?」
「なんだ、サンドイッチでいいのか!」

・・・という、笑える話なのだが、
実はそれが、フィレンツェで一番美味しいと思った食べ物だったらしい。

市場に入ってみる。
肉屋さんばかりのコーナー、八百屋のコーナー、魚屋のコーナーという風に
おおまかに分けられている。どのお店もきれいだ。
もちろん、チーズやパスタ、ワインのお店もある。
店先の野菜の彩りの美しさとか、高く積まれた缶詰めの鮮やかさとか・・・。
河ちゃんは、こういうの好きらしく、写真をパチパチと撮っていた。
私は、なんとなく妻の田舎、気仙沼の魚市場に似ているなぁ・・などと考えていた。

探しまわった末に、思い出のサンドイッチの店を見つける。
が、今日は場所だけ覚えて、お楽しみは、明日に・・・
ということで、今日もまた、ボローニャに出かけるぞ〜〜!!



昨日の経験から、もう切符の買い方もばっちり。
ES(ユーロスター)の指定席で、ゆったりと列車の旅である。
今回は、たいした遅れもなく、順調にボローニャに着く。バスも、スムーズに乗れた。
余談であるが、
ボローニャ絵本展を、イタリアの人は「ボローナ・フェアラ」と呼ぶ。
または、単に「フェアラ」である。

さあ、フェアラに到着だ。
まずは、記念に一枚、パチリ。


河ちゃんこと河本くんです。顔がよくわからない? ごめん。




こっちが私。フリーパスのカードをしっかり持って。


いざ、入場!
まず、メイン会場に、今年の入選作が展示されている。
さすがに、みんな力作ぞろいである。
「う〜〜ん、これじゃ、オレのは落ちるわけだ・・」なんてね。
今回は、最初から入選するとは思ってなかった。参加することに意義があると思って、
とりあえず応募したという感じ。
でも、正直言って、負けてる気はしない。
力いっぱい描き込めばいいってもんじゃないよね。と、ひそかに思う。

展示コーナーの横に、掲示板があった。
これが、うわさに聞く掲示板か。すごい熱気を感じる。
「MEETING POINT」と書かれている。出会いの場所ってわけか。
世界中からやって来たイラストレーターやデザイナーが、名刺やポスターを貼って、
自己PRをする場なのである。
当然、編集者やプロデューサーが注目しているはず。
実際、熱心に何やらメモしている人や、名刺を集めている人がいる。


掲示板のパワーに圧倒される。びっしりだ。これの3倍以上の面積がある。


さっそく、我々も参加しようと思うが、すでに壁は、ほとんど埋まっている。
それに、押しピンを忘れた。
そこで、掲示板のすぐ下、床に「オリジナル絵はがき」を置く。
まずは「Lucky Cat」の絵はがきで様子を見よう。
プリンタで印刷したものだが、1枚1枚、透明のセロファンみたいな袋に入れて、
後ろに英語版名刺を添えておいた。

河ちゃんは、この日のために、自作絵本に英訳の文章を貼付けて、数冊持参していた。
「やるなぁ!!」と思った。
「だけど、絵本を置いたら、持って行かれちゃうんじゃないの?」
「うん。それでもいいんだ。まだ、あるから」
太っ腹である。


ここから、いよいよ、各国の出版社のブースがある会場へ向かう。
イタリアの出版社のコーナーが3館、世界の出版社のコーナーが4館となっていた。
かなり大きめの体育館を想像してください。
それが、7つ並んでいるのを想像してください。いかに広いか、分かると思います。
ブースの数は、全部で1000を軽く越すようです。

人も多い。一般の観光客も入っているので、
業界関係者なのか、一般人なのか、見分けがつかない・・・。
ただ、売り込みのイラストレーターは、すぐ分かる。
大きなポートフォリオ(作品を入れるかばん)をかついで、ラフな服装で歩いている。
外国人が多いが、たまに日本人も見かける。

今日は、雰囲気をつかむのが目的。つまり、様子見である。
しかし、作品を見てくれるブースは少ない。
(見てくれる所には列ができるので、すぐ分かる)
やはり出版社も、版権の取り引きとか、営業に忙しくて、なかなかクリエイターの
相手までしてられないのだろう。

ざっと見て回ったところで、ランチタイム。
会場内のお店でピッツァを買って、屋外で食べる。飲み物は、ミネラルウォーター。
外で風を感じながら食べるのは、気持ちいいもんだ。



食後も、会場めぐり。
と、フランスの出版社のブースに人が並んでいる。売り込みだ。
見れば、有名な白い犬と黒い犬の絵本をだしている会社だった。(名前を忘れたけど)
長い列でもないので、ふたりで並んでみた。
とても美人の編集者が、ひとりひとり丁寧に見てくれていて、好感が持てる。
ところが、やっと順番が来るかと思った時、
彼女が、つかつかとやって来て、
「フランス語はできますか?」と英語で聞いてくる。
フランス語ができない人はお断り、ということらしかった・・・。
門前払いである。がっくり。
言葉の壁は大きい。
しょんぼりと、その場を立ち去る。

でも、さっき日本人も見てもらっていたはず。
彼女らはフランス語ができるってことか! まいったなぁ、もう。

エスプレッソを飲んで、気を取り直す。
「へっ、あとで後悔するなよ。逃がした魚はでかいぜ・・・」



その後も会場を回るが、とりつく島も無い。
疲れてきたので、今日はこれまでとして、掲示板に戻った。
絵はがきは、全部無くなっていた。
それに気を良くして、さらに今度は「飛ぶひと」シリーズのはがきを置く。
と、すぐに持って行ってくれる人がいて、感激!
うれしいなぁ。
これだけでも、来てよかった。はるばる来た甲斐があったというものだ。



7. フィレンツェの夜

帰りのバスが混雑するのがいやなので、早めに切り上げる。
7時過ぎには、ホテルに戻れた。
イタリアの7時は、まだまだ明るいのである。身軽になって、散歩をすることにした。

アルノ川という大きな川が、フィレンツェの街の南側を流れている。
「そこに、ヴェッキオ橋というかわいい橋が架かっていて、
橋の両側には、宝石や彫金のお店がずらりと軒を連ねているんだよ」
と、河ちゃんが説明してくれた。
行ってみると、もう店じまいの時間らしくて、大半が木戸を下ろしていたが、
開いている店先を覗くと、まばゆいばかりの金銀細工である。
きっと何百年も昔から、こうして、橋の上のお店を引き継いできたんだろうね。
昔は、王侯貴族がここを歩いていたわけだ。


ヴェッキオ橋もまわりの家も、積み木のようにカワイイ。


散歩の後は、夕食だ。
昨日お昼を食べた「マリオーネ」が気に入ったので、今夜も行ってみた。
が、なんと満席。やはり人気あるんだね。
「じゃあ、新しく開拓するか」
歩いて歩いて腹ぺこになった頃、やっと見つけたお店・・・「ガリバルディ」。
ここが大当たりだった!

まずは、生ビールを頼もうと、ウエイターを呼び止め、
「え〜と、ビアラ・・なんとかかんとか・・ミディアム」と、メニューを指さすと、
「はい、中ナマですね」
「あれ? 日本語通じてる?」
「はい、私、日本人ですから・・(笑)」
なんだよ、早く言ってよ。よく見れば、ひげを生やしてるが日本人だった。
たくさんのイタリア人に混じって、ひとり、このお兄さんは頑張っているのだった。
「修行に来ているのかな・・・すごいね」
ふたりで感心してしまった。

「ムール貝のマリナーラ」というのを注文。(マリナーラは、マリネである)
でっかいどんぶり?に山盛りのムール貝が出て来た。
安いのに、見た目が豪華である。
レモンを絞ってかける。殻から取り出して口に運ぶ。
ニンニクが効いていて、めちゃくちゃうまい!! (パセリか何か、香草もかかっている)
ビールもぐんぐん進む。
食べていくと、下にパンが入っていた。マリネの汁に浸してある。このパンがまた最高!
パンがなくなると、テーブルに出ていたパンも浸して食べた。
この一品だけで、私はごきげん。
美味しいものに出会うと、気持ちがハイになるのだ。
「そういえば、道子(妻)の田舎で、ムール貝を食べたなぁ・・。
宮城では、これをシューリ貝と呼んでいたけど。
あの時は、塩茹でだったかな。あれも、うまかったな。思い出すなぁ〜」
と、急に饒舌になる。

これが、たったの8ユーロである。日本円にして、1000円くらいなのだ。信じられない!
私はもう、迷うことなく三ツ星、いや、四ツ星をつけた。

ほかの料理も美味しかった。
茹でた野菜や、サーモンのパスタ(平麺)など・・・どれもレベルが高い。
「ここのは、ハズレがないよね」と、河ちゃんも笑っている。
レンガ造りの壁に、がっしりしたセピアの木のテーブル、落ち着いた店の雰囲気もいい。
「う〜〜ん、幸せ。明日もここにしよう」
うなずき合ったふたりであった。

(まだつづく)