ローマ・フィレンツェ・ボローニャ

1. プロローグ

2004年 4月12日(月)
ローマの空港を一歩出た途端、相棒の河ちゃんが言った。
「久保さん、とうとうイタリアに来たんだよ。どう?感想は?」
「う〜〜ん、やっぱりイタリアの空気は違うなぁ・・・って、分かるか、そんなもん!」
雲が切れ、お日さまが顔を出したところだった。

空港からホテルへ行く車の中で、最初に目に止まったのは、なんと、
空港のはずれに立ち並んだ鉄塔・・・
「イタリアの鉄塔は、牛の顔だぁ!」と、心の中で叫んだ。
しかし、なんでこんな形なんだ??
とか思っているうちに、また新たな驚きが現れた。
「うわぁ、逆三角形のビルだぁ!」
10階建てくらいの大きなビルなのに、下へ行くほど細くなっている・・・何かの施設なのか?
あれがマンションだったら住みたくないよなぁ。
日本では、ありえない建物だ。さすが、斬新なデザインの国、イタリア!

とにもかくにも、私達を乗せた車はこわいくらいに飛ばし、
ローマの中心街を通り過ぎていくのだった・・・まだ旅は始まったばかり。


これは後日、ボローニャへの列車から撮った鉄塔


2. そもそもの始まり

それは、去年の10月だったと思う。
ある知人が、「ボローニャ絵本原画展」に出品するため絵を描いていると話してくれた。
「まだ時間あるから、久保さんも出してみれば?」
その時は軽く聞き流していたのだけれど・・・。

数日後、うちに同業の友人を呼んで飲む機会があった。
河ちゃんこと河本くんも来た。
彼は、前回のボローニャ展で入選していて、また今回も連覇をねらうと豪語する。
そして、ボローニャへも実際に行ってみるつもりだというのだ。

その心意気に共感し、酔いも手伝って、私は、
「いいね、いいね。オレも行きたいなぁ、ボローニャ」
「じゃあ、行きましょう。久保さん!」
と、盛り上がってしまったのであった。(ノリだよ、ノリ)

私は、海外旅行の経験はない。
だいたい、ボローニャがどこなのかも分かっていなかったのである・・・。
が、河ちゃんはひとりで、海外をあちこち行っているのであった。
7年前には、フィレンツェにも行ったという。
頼もしい!!
彼と一緒なら、なんとかなる気がした。



12月、河ちゃんとふたりで旅行代理店へ。
個人ツァーとして予約する。
せっかくイタリアまで行くのだから、ローマ見物もしてみたいと意見が一致。
ローマで2泊、フィレンツェで4泊という6泊8日の旅となった。
(ボローニャのホテルは、もう満杯で予約が取れない状態だったので、
フィレンツェから電車で通うしかないのであった)

「あとは、作品を作らなくちゃね」
そうなのだ。ボローニャ展では、世界中から出版社が集まり、絵本の取り引きを行う。
そこへ、これまた世界のイラストレーターがやってきて、作品を売り込むのである。
世界のどこかに、自分の絵を気に入ってくれる人がいるかも知れないのだ。
「英語版の名刺も作らなくちゃ」

夢に向かってのワクワクの日々である。
そして・・・あっという間に、4月になっていた。




3. まずはローマ見物

4月13日(火)
ローマの朝は早い・・・。
午前8時、私達はホテルからローマの中心地にある「バルベリーニ広場」へと急いでいた。
ホテル「ドナテッロ」は、小さいがしゃれたホテルで、気に入っていたが、
中心からはずれた場所にあるのが難点であった。

「ローマ半日市内観光」という無料のオプショナルツァーに参加する予定で、
集合場所へと、早足で向かっていたのだ。
約束の時間は、8時20分。
地図を見ながら、見知らぬ街を急ぐのは、なんとも不安なものである。
「もういい、やめよう!」
ふたりとも、急にばかばかしくなって立ち止まる。

朝の光に包まれた美しいローマの街を、なんで急いでいるんだ、オレ達は?
ガイドさんについて行かなくても、観光はできるじゃないか。
「自分達のペースで見て回ろう」
そう結論を出して、ゆっくりと歩き始めると、やっぱりいろんなものが見えてくる。
建物の上の方で天使が見下ろしていたり、
公衆電話がメタリックでクールだったり、街角の木がいい感じだったり。

バルベリーニ広場に着いたときには、誰もいなかった。
きっとガイドさん、少しは待ってみたものの、来ないのであきれて、
集まった人たちだけで出発したのだろう・・ごめんね。


イタリアの木は、なんかシャワシャワしている。




さて、作戦会議の末、まずはスペイン階段に向かうことにした。
「ローマの休日」で有名な、あの階段である。
細い道をまっすぐ行くと、ほどなくスペイン広場に出る・・と思いきや、急に眼下が開け、
そこは、階段の一番上だった。
「あれれ??」
広場から階段を見上げるつもりが、逆から来ちゃったのだ。たはは。
でも、見晴らしがいいので、良しとする。
まだ朝早いので、人もまばらで、「やったね」状態である。
階段をおりて、下から見ると、おお〜〜っ!やはり映画のイメージそのまま。
もちろん、ここでジェラートアイスを食べる。


「カフェ・グレコ」でカフェラッテを立ち飲みし、お次はトレヴィの泉だ。
少し道に迷うが、なんとか探し出した。


これはトレヴィの泉からの空。泉の写真は、よくあるのでパス。


ここは、さすがに観光客でにぎわっていた。みんな泉に背を向けてコインを投げる。
お決まりのポーズであるが、私も河ちゃんも、気恥ずかしくて出来なかった。

少し雲が出て来た。

この泉のすぐ近くで、えらくモダンな本屋さんを見つけた。
河ちゃんが興味津々なので入ってみる。
ディスプレーがモダンなのだが、置いてある本のデザインもおしゃれである。
全部がイタリアの出版物とも限らないが、優れた表紙デザインがズラズラと並んでいる。
日本の装丁と比べて、シンプルな感じが多い。
タイトル文字なんかは全然こったものはなく、普通の書体なのだが、
際立ったレイアウトで、インパクトがある。(写真に撮れなくて残念)

2階には絵本コーナーがあり、
オールカラーの絵本的コミックが、我々の度胆を抜いた。
それは、どうやら大人向けの本らしいのだが、何がすごいって・・・・
1コマ1コマが、1枚のイラストとして成り立っている!!
そんな力作がず〜〜っと続いているのである。
感動。
しかし、やはり高価だし、本は重いし・・で、買うのはやめたのだが・・・
作者名とか控えてくれば良かったね。



南へ少し下ったところに、昨日見たアレがあるはずだった。

前日、空港からホテルに向かう車中から、ちらっと見えた荘厳な光景・・・
それは、どでかい建物にちりばめられた彫刻のオンパレード!
ガイドブックで調べて、これが「ヴィットリオ・エマヌエーレ2世記念堂」だと判明。
ぜひとも、もう一度ゆっくりと眺めてみたかったのだ。


どでかくて入りきれない。2枚の写真を合成しました。


中でも、気になる存在は、ライオン。
羽が生えていて、かっこいい。こま犬のように2匹いて、階段の両脇を固めている。
でも大きさは、こま犬やシーサーの比ではない。
本物の馬よりもまだ大きいくらいである。
こんなのがいたら、本当にまたがって空を飛べそうである。


こま犬は、どちらかが口を開けたりしているが、これはどちらも閉ざしている。


ここの上からは、ローマの街が一望できる。
いろんな方角を眺めていると、「おおっ、クレーンだ!」
ローマのクレーンは十字型である。
「これはぜひとも撮らなくては・・・世界のクレーン愛好家としては」
と勝手に思い込んで、パチリ。


距離があったので、ピントが甘いです。ごめん。


また、別の方角を見ると、有名なコロッセオが見える。円形闘技場である。
「じゃあ、次はあそこへ行こう」

コロッセオへの道は、やけに人が多い。大きな通りに出店がいっぱい。
やはり、ここが一番の観光名所ということかな。
着いてみると、ずら〜〜〜っと人の列である。中に入るために並んでいる様子。
おりしも雨が降り出した。
外観だけ見れば充分と判断、お昼を食べようということに。

「アンジェリーノ」というお店に入る。
ピッツァ(イタリアでは、ピザをこう発音する)と、モルトビールを注文。
ひげを生やしたウェイターのおじさんが、陽気に歌いながら運んでくる。いいねぇ。
これぞ、イタリアだよね。
一番シンプルな「ピッツァ・マルゲリータ」を頼んでみたのだが、
トマトの赤、モッツァレラチーズの白、そしてバジルの緑がちょこんと添えてある。
まさにイタリアの色である。
このピッツァの美味しいこと!! びっくり。
日本のピザのこってり味とは対照的な、あっさりうす塩味。生地も薄くてパリッとしている。
これは、ビールに合う! いくら食べても飽きない美味しさだ。
「これが、本物の味だったのか」
午前中歩き通しだった疲れも吹っ飛ぶくらい、ほんと、うまかった。
「あ〜〜、幸せ・・」




4. ヴァチカン市国

午後からは、いよいよ本日のハイライト、ヴァチカン美術館である。
システィーナ礼拝堂の天井画、ミケランジェロの「最後の審判」のあるところだ。
「ここだけは絶対に見たい!!」
と、河ちゃんが言い続けてきた、本日のメインなのだ。

が、しかし、ここもすごい人の列である。
入り口から、ズラズララ〜〜〜っと、100メートルは軽く越す感じ。
「仕方ないよ。なにしろカトリックの総本山なんだから」と、河ちゃん。
そうか、そういう意味で来る人も多いわけだ。
並んでみると、意外に列の進みが早くて、30分くらいで入れた。ほっとする。

中は、めちゃくちゃ広い。
いろんな絵画、彫刻が展示され、いちいち反応していたらきりがない。
「とにかく、システィーナ礼拝堂へ一直線に行こう」
ところが見学コースは、あっちへ入り、こっちへ曲がり、長くて遠い・・・。
疲れて、中庭でひと休み。
そこに、ライオンの像があったので、思わず撮影。


「こまったライオン」と名付ける。


天気は回復し、青空が広がっていた。「さあ、もう一息」と歩き始める。
順番に絵の説明を受けている団体さんをすり抜け、先を急ぐ。
「システィーナ」の案内板が見えてくる。
もうすぐだ。
しかし、行けども行けども、矢印は続く。
まるで、引っ張るだけ引っ張る、最近のテレビ番組のようだ。

長い廊下を突っ切り、部屋をめぐり、階段を降りて、ようやく本当にようやく辿り着いた。
うすぐらい部屋。観光客がわさわさと集まっていた。
見上げれば、これこそがミケランジェロの大傑作「最後の審判」!
さすがにでかい。
距離をおいて見ないと、全体が分からないほど。
すごい立体感だ。
ずっと見ていると、首が痛くなる。
ここは写真撮影禁止である。けちだなぁと思う。

後ろの方に座って見れる場所があった。
かなり疲れていたので、座って首の運動をする。こきこき。
ふと真上を見ると、見覚えのある人物像が描かれていた。あのポーズ、あのオレンジ色の衣装。
「あの絵、どっかで見たことあるなぁ・・?」
と指差すと、河ちゃんも見るなり興奮して、
「あ! あれだよ、僕が高校の時に朝日新聞で見たっていう絵は!
あれを見てから、ず〜〜っと、いつかは本物を見に行くんだと思い続けていたんだよ!!」
なんと、そうだったのか。
そういえば、思い出した。その朝日新聞の日曜版の絵を、私も見ていたのでした。
同じ時期に同じ絵を見ていたんだね。
彼は名古屋の高校生。私は兵庫県で、デザイン専門学校に通っていた頃かな・・。

不思議な縁で、こうしてここにいるんだね。


「デルフィの巫女」というらしい。左腕の立体感!


もうこれで、思い残すことはない。
そんな満足感というか、満腹感というか・・・
「もう、たくさん。これ以上は入らない」てな感じで、美術館を後にした。

出てみると、そこはサンピエトロ寺院の正面であった。
目の前がサンピエトロ広場で、ローマ法王が民衆に挨拶をする、あの場所なのである。
空を見上げると、寺院の上から聖人たちが見守っていた。


まるで、ふたりの旅を祝福してくれているようだった。


これで、ローマ見物は、おしまい。
明日はフィレンツェ。そして、ボローニャ絵本展が待っているぞ!

(つづく)