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雲の本の出版とその後の密かな楽しみ
 最初に言っておきますが、私の場合、本を出すのは「お金儲けのため」じゃありません)。実際、もらう印税よりカメラやレンズに使っている金額の方が大きいですし。
私が本を書くのは、@自分の楽しみ+A体験を記録に残す+B雲や自然現象を見る楽しさを広く知ってもらいたい、という3つの理由からです。


 本を書くのって楽しいのですが、実際の作業は長くて結構大変です。ときには初稿原稿作りに3ヶ月、構想から実際に本が出版されるまで1年半以上かかるときがあります。
でも、それだけに苦労して作った本ができて、書店に並んでいるのを見るのには何とも言えない喜びがあります。
発売日になると、まず近くの大型書店に出向き、自分の本が書架に並んでいるのを確認。ようやく出版を実感し、「ほっ」とします。
  
 ※2011年に「雲のカタログ」を出版する際、担当の久保田さんに「出版に際して印税はいらない」と言ったら、「それは長い目で見ると、出版界を壊すことになる。著作者はきちんと対価を受け取らなければならないし、出版社は対価を払わなければならない」と言われました。                         
1.本を出すまで
 私のブログには、たまに「どうしたら本を出せるのですか?」という質問が寄せられます。書店に行くと、あれだけ多くの書籍が並んでいるに、どうやったら本を出せるかって分からないんですよねぇ。で、ここにちょっとメモっておきます。

 出版社に企画を持ち込む場合の出版までの道程(の一例)です(※出版社から依頼されての出版では下記CDは必要ありません)。 私の場合、(成せばなるみたいな)かなり正面突破的な出版までの過程が多いので、これが通常な道程なのかは「?」です。あしからず。

 (スタート) 
  @構想を練る。→ 構想を具体化するために、簡単な章構成をつくりながら内容を練る。
  A@を元に原稿作成を開始。同時に持ち込む出版社をリストアップ。
  B企画書を書く。
  C企画書(+原稿の一部や自身の実績資料も)をEメールなどで出版社に持ち込む。
  D「話を聞く」という返答があったら、具体的連絡・質疑・折衝をする。(場合により、実際に編集者と会って話をする)
    → ダメだったら次の出版社にあたる。

 (うまく進んで、出版社の企画会議等を経て、Goが出たら)
  E出版社と内容や構成、日程の打ち合わせをする。(出版社側からスケジュールが送られてくる場合も)
    例えば、、、、→ 学研2014の進行表・MdN2015の進行表(PDF)
  F打ち合わせ内容に合わせて章構成を細かく再構成する。 → 連絡を取りながら修正する。
  G候補写真、原稿資料を再選択・追加。
  H原稿を執筆。図版の作成・追加・修正。
  I全体を通して修正。再構成。
  J締め切りまでに完成原稿提出。
 (ほっと一段落)

  K校正刷り(デザイン案等)できあがり → 校正作業 → 修正原稿提出
  L第2校できあがり → 校正作業 → 修正原稿提出
  M色校できあがり → 色校チェック作業 → コメント等送付
  N最終校チェック → 校了
  Oこの辺りで「出版契約書」締結。

 (印刷)
  P1〜2ヶ月後出版・書店に並ぶ

 まず上のA〜D、そしてGoサインをもらうまでが、第一のヤマ。何しろ、ここを通過しないことには何ともなりません。
企画持ち込みの場合は、まず自分の書きたい分野を得意としている出版社を探しだし、企画書を持ち込みます。
ここで、出版社にどれだけアピールできるか=いかに必要とされるか、売れる可能性がある本なのかをきちんと納得してもらわないとけませんから、自分の実績や原稿の一部(完成している必要はないと思います)、あるいはわかりやすい資料なども準備しておきます。

 無事Goサインが出たら、H〜Iの原稿完成までが勝負です。私の本の場合は写真が多いので、数年分数万枚の写真の中から必要な写真を選ぶだけでも一苦労。もちろん、原稿を書きながら、候補の写真や図を追加したり、差し替えたり、時には構成自体も変更する必要も出てきます。原稿はレイアウトも考えて、文字数の検討や文面の精選も必須。そのためにも自分で基本的なレイアウト自体も作りながら原稿を書いていきます(最終的なデザインは出版社のデザイナーがつくってくれます)。
基本的に、文章自体を編集者に直してもらうようなレベルでは本を書く資格はないと感じているので、文章は提出前に徹底的に何十回も見直して修正します。

最初の企画書を出してから出版まで。通常半年〜1年ほどかかります。

で、、、出版後は何しろ、恩返しのために自分自身で広報・販促に努めます。出版社はリスクを取って出版に踏み込んでくれたのですから、こちらも頑張ります。初刷りが売り切れて、増刷できるだけ売れれば、はじめて恩返し完了です。

 
出版打ち合わせのために東京・草思社を訪問。(2010年10月 )

出版依頼のために来沢した出版社の担当者さんと飲みながら打ち合わせ (2015年5月)
 

構成案作成 (2013年5月 空の図鑑) 

スケジュール表 (2014年5月 「空の図鑑」)

→ 日程表の例(PDF)
 

原稿作成中 (2013年4月 「立体観察図鑑」」)

完成に近づいた原稿を出力、チェック・修正 (2014年3月 「空の図鑑」)
 

レイアウト・色校正作業 (2013年5月 「立体的観察図鑑」)

2回目の校正 (2016年1月 「雲の見本帳」)

第3校=テキスト部分の最終校正(2022年1月)

印刷物送付での色校正 (2016年2月 「雲の見本帳」)

出版社(東京・草思社)に出向いて色校正(2022年1月)
 
完成し送られてきた本 (2011年 雲のカタログ)
 

完成し送られてきた本 (2022年 新・雲のカタログ)  
 
 当たり前ですが、どこの誰かも分からない、何の実績もない人に「はい、出版しましょう!」と言ってくれる奇特な出版社はありません(と思います)。

 初めて本を出したい人は、しっかりとした構想や原稿はもちろん、自費出版やwebページなど、できるだけ説得力のある実績を作っておく必要があると思います。
私はまだ本を出していない頃から、最終的に商業出版を目標にしていたので、数年計画で最初の本「雲三昧」を自費で2000部出版(これも最初は「無謀だ」と言われました)し、全て売り切ったところで新しい企画を立てて、書いておいた一部の原稿と共に草思社に持ち込みました。草思社の担当だった久保田さんの「やりましょう」という勇気には、いまだに感謝しています。

 いろんな幸運のおかげで最初の本「雲のカタログ」は好調に売れ、その後は出版社の方から「こういう本を出したいのですが」というお話を頂くようになりました。(それでも、原稿を書き終えてから出版を断念したものが2件、出版社側から依頼があって、製作途中でやめたものが1件あります)

 めでたしめでたし。
   
2.無事出版された後の楽しみ
 長い作業のあと本が出版されたら、発売日にまずは書店に出向いて確認。書店の棚に本が並んでいるのを見て、初めて「あー、やっと出たんだなぁ」と実感します。そのあと、各種メディアに載ったり、取材を受けることもあり、イロイロと世界が広がっていきます。本は出版した後が楽しいのです。

2008年1月 金沢・ブック宮丸の「雲三昧」
自分の本が書店に並んでいるのを初めて発見。

2008年1月 明文堂Beans
金沢の巨大書店にも「雲三昧」。 
  

2008年3月 明文堂Beans

2011年5月 静岡の書店で「雲のカタログ」
Sunnyさんが見つけて送ってくれた。
  

2011年5月 野々市市・明文堂書店

2011年6月25日 NHK収録で東京へ
  

 
2011年6月 三省堂書店・神田本店
 
科学書ランキングで2位だというので見に行った。1位は雑誌だから、実質1位でしょ?
20冊ほどが、キャプション付きで平積みになっていた(右)。感謝!
  

2011年7月 アマゾンの売り上げランキング
地球科学分野で売り上げ1位に。

2011年9月 明文堂Beans
「驚くべき雲の科学」出版後、書店に偵察へ 。
  

2011年10月 明文堂beansに並ぶ2冊

2011年10月 静岡県・戸田書店
sunnyさんより
  

2012年7月 アマゾン著者セントラルの売り上げ推移グラフ。
著者だけが見ることができる。

2013年3月 アマゾン売り上げランキング。
全書籍中85位。一時は40位台までアップ。
  

2013年3月16日付け日経新聞
大人が読みたい日本の図鑑ランキングで3位に。


収録のときにもらった、しょこたんと山田五郎さんのサイン

2013年6月 六本木ヒルズでのラジオ収録。
(肖像権の関係でお二人にはモザイクをかけてあります)
  

2013年5月 明文堂書店金沢野々市店
キャプション入りで展示されていた。

2013年8月24日 明文堂金沢野々市店
「雲のかたち立体的観察図鑑」出版後の偵察で。 
  

2013年8月 明文堂金沢野々市店
著書3冊そろい踏み

2013年8月 朝日新聞「著者に会いたい」取材・掲載
   

2014年7月 新潟の書店に並ぶ空の図鑑
出版後初の書店確認。らぶらびさんより

2014年6月 BS Japan:Nikkeiプラス1を見てみよう「何でもランキング」で紹介
   

2014年7月 日テレ系:行列のできる法律相談所
菊池弁護士に紹介してもらったけど、わずか5秒くらいだった。

2016年1月 日テレ系 シューイチで紹介
    

2015年9月 松本丸善
雪氷学会のあと、ふらっと寄ってみたらここでも平積みになっていた。
離れた場所で自分の本と出会うと何かうれしい。
  

2016年5月 金沢・勝木書店大桑店
「雲の見本帳」出版後の偵察で。

2019年6月 明文堂書店金沢野々市店
青の本をテーマにした展示の中に2冊
    
   
2022年3月
北海道新聞に記事の掲載

2022年3月
日経新聞に広告掲載
   
おまけ        
 「本を出している」と話をすると、「印税っていくらですか?」「儲かってますか?」と必ず聞かれます。心の中では「余計なお世話!」と思いますが、それだけ出版界のことは知られていないということでもあるのだと思います。
そこで、私の経験でわかることを書いておきます。

1.印税っていくらもらえるのか?
 出版社との契約によりますが、書籍の価格の10%〜8%が著者の印税になります。1000円の本であれば1冊あたり80〜100円です。これから源泉徴収で所得税が引かれますから、実際には、×0.9=72円〜90円ということになり、これに出版部数をかけたものが著者に支払われます。例えば1000部出版したら7万2000円〜9万円、5000部なら36〜45万円です。
 ちなみに、印税は「売れた数」ではなく、「何部印刷したか」で支払われます。本の奥付には「初版○○年○○月○○日」と書かれていますが、最初に印刷したのがこの日、「○○年○○月○○日 第2刷」とか書かれていれば、初版が売り切れて増刷したことを示します。

 本が売れて増刷を重ねると著者へはそのたびに印税が支払われます。ただし「売れれば」の話です。世の中のほとんどの本は売れませんから、増刷もありません。
 出版社の話では「5000冊売れる本はごくわずか」だといいます。上に書いたように、1000円の本を5000部出版できたとしたら著者が受け取る印税は36〜45万円ですが、よほど「売れる」と出版社が考えない限り、最初からのんきに5000部も印刷してくれる物好きな出版社はありません。学術書などは200冊〜500冊というレベルで、おまけに著者自身がある数量を自分で買い取る契約になっていることすらあります。

2.本を出版すると儲かるのか?
 随筆や私小説のように「元手がかからない」本であれば、印税≒所得になるかもしれません。
 ところが、私の場合は本の出版までに使うカメラ・レンズ・PCやソフトウェア、移動・滞在などに相当額の費用がかかっています。多くのプロカメラマンは遠征費や機材は私と比較にならないほど膨大な額になるはずですし、歴史小説や科学書などを書くには多くの参考資料・調査費が必要です。
 つまり、印税−必要経費が「プラス」になるかどうかは、また別問題なのです。また、私は1冊本を出すのに半年〜1年近くかかりますから、時間的に見ても、「お金儲け」として考えると、とても割に合う作業とはいえません。
 結論としては、トータルで考えると、本を出しても(ほぼ)儲からないということになります。私の著書を見て私が「印税で生活している」と勘違いする人がいますけど、「世間知らず」のとんでもない誤解です。
 もちろん、売れる本を年に数冊コンスタントに出せるような実績・実力があれば、また話は別ですが、それができている人は世の中にわずかしかいません。

3.じゃあ、なんで本をだすのか?
 私の場合、本を出す理由は冒頭に書いたように「本を書くこと自体が遊び」であること、「自分の苦労と体験が記録に残る」こと、さらに「雲に注目してもらうために役に立つ」と考えているから。
もちろん、多少なりとも「印税がいただけると、機材の足しになるのでうれしい」という順番です。

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