FEBRUARY 15のDIARY 『若い才能』

 
 芥川賞の女性二人の受賞作を読む。十九歳と二十歳。二人とも、その文章力には驚かされる。でも、文章がうまいだけで彼女たちが賞を得たのではないだろう。この二人が今回賞を取った最大の理由は、この人たち(特にこの年代の女性)でしか感じることも書くこともできない事柄が見事に表現されていたからだろうと思う。芥川賞というのは、本来将来性のある若い才能に贈られるもの。その意味では、適切な人たちに贈られたのではないかと思う。ただ....。
 ただ、やはり問題はこれからなのだろう。彼女たちに才能があることは間違いないのだが、それが本当の意味できちんと使えるようになっていくのか?そして、自分の存在がどこにあるべきかをキチンと理解できるかどうかが、モノ書きとして本当に成功するかどうかの鍵なのでは?と思う。
 十代、二十代のうちに世の中に出ていっぱしのことをやるのはそれほど難しいことではないし、そういう人たちは世の中に意外とたくさんいる。ちょっとした才能とちょっとしたやる気さえあれば、世間で評価されるのはそれほど難しいことではない。ただ、それを長い間継続していくのは....。そちらの方が、ある意味至難のワザなのではないだろうか。
 東芝EMIからもうすぐ出るCDに「ダーウィンの左耳」というのがある。私がライナーを書いたりいろいろ製作に関わってきたモノだが、これはかなり画期的なクラッシックのコンピレーション・アルバムだ。何しろ、一枚のCDに70人の作曲家の70作品が収められている。当初考えられていたキャッチコピーが、「70曲、70分、700年」というラッキー7みたいなイカガワシイもの(笑)。「何ちゅう無謀な!」と最初は思ったけれど、「待てよ、無謀は私の得意ワザのはずでは....」と思い直し、けっこうノッてやってしまった。
 グレゴリオ聖歌から武満徹まで一気にノンストップで聴いていく。本当に70分ぐらいの分量なのだが、不思議にそんなに長い時間聴いた感じがしない。ルネッサンス、バロック、古典、ロマン、近代、現代とあれよあれよと言う間に音楽が移り変わっていく。でも、700年前のグレゴリオ聖歌にしても、みんながよく知っているパッヘルベルの「カノン」にしてもたかだか300年ぐらい前の音楽。そして、今ヒットチャートをにぎわしている「ジュピター」という曲にしても(「ジュピター」は、ホルストの『惑星』の中の一曲だということはおそらくみんな承知のことだろうが)にしてもせいぜい100年ぐらい前の音楽。確かに、グレゴリオ聖歌と「ジュピター」では音楽の感覚は違うけれども、どっちも私たちの耳には心地よさという点ではまったく変わらない。要するに、このCDを聴いていくとわかることは、音楽というのは、700年前も300年前もそれほどの違いはないし、ましてや私たち人類が音楽に求めているモノは人類の誕生以来きっと何も変わっていないんだろうナということだ。
 ジョン・ケージの音楽がいくら理解しにくくったって、所詮は人間が作ったもの。それがわかるとかわからないという問題ではなく、それはそこで必然的に生まれてきたものなのだろうという気がするし、ルネサンス期の宮廷のベッッドサイドで毎日歌われていた(この時代、ベッドの脇でその最中に音楽を演奏させられる音楽家はたくさんいた)「愛」の歌が王侯貴族たちの慰みものであったとしても、男女の「好きだ嫌いだ」というような感情表現であることに変わりはない。
 二十一世紀の今日でも結婚式のたびに演奏される誰でも知っているメンデルスゾーンの「結婚行進曲」。ルネサンス期の音楽とは若干違って聞こえるが、この曲も「愛」がテーマの音楽であることに変わりはない。おそらくこの曲が結婚式から消えてなくなることは今後もあり得ないだろうが、この音楽を書いたメンデルスゾーンという作曲家は、その主な作品をほとんど十代、二十代の時期に書いている人だ(まあ、彼は38才という年で亡くなってはいるのだが)。モーツァルトもそうなのだろうけど、ある意味天才というのは、若い時期にその才能を出しきってしまう場合も少なくない。世間からは死に急いでいるようにも見えるが、天才というのは逆に自分の短い寿命を最初からわかっているのかもしれないとも思う。
 幕末の志士たちも皆十代や二十代だったことを考えると、彼らも自分たちの運命を最初から理解していた人たちだったのかもしれないと時々思うことがある。人の一生の長さが最初っから何歳と決められているのかいないのかわからないが(私には何となく決められているような気がしてならないが)、そのライフスパンの中でどれだけの仕事をして、どういうエネルギー配分をしていくのかはその人個人個人の問題だろう。でも、若いうちに世の中の注目を集める人たちの人生は、ある意味かなりシンドイ人生なのではないかとも思う。何しろ、若い時に得た名声や地位、作品がその人の人生には一生ついて回るのだから。

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