APRIL3のDIARY 『親子関係』

 

   東京の桜は満開だというのに相変わらずアメリカ侵略戦争が毎日続いているが、先日、NHKの『クローズアップ現代』という番組で不妊治療の一貫としての「卵子提供」のことを取り上げていた。
 現在、不妊治療を受けている夫婦は、10組に1組ぐらいの割合だという。つまり、一割の夫婦が子供が作れない悩みを持っているということだ。ことばは悪いが、不妊治療は、ある意味、最先端医療技術の実験場でもある。それこそ、体外受精や細胞からオリジナルの核の取り出して別の細胞核に置き換えるクローン技術も近い将来、この分野で応用されることは間違いない。そして、問題の本質もここにある。
 子供を作る。子孫を残していくことは生物の宿命だし、種を残すための自衛本能でもある。生物の生きる目的は、すべてここに集約されると言ってもいい。種を残すためのサバイバルが地球上で生活するすべての生物の生命連鎖の中で行われている。しかし、問題は、人間だけが科学技術というものを持ってしまったために、次から次へとこの地球上の生命の連鎖の輪を断ち切ろうとしていることだ。あらゆる有性生物は生殖を行って子孫を残していこうとするが、すべての子孫が生き残れるわけではないし、すべての親が子孫を残せるわけでもない。生物人口の何割かはサバイバルできないのが自然の宿命なのだ。日本も、何十年か前までは兄弟が5人以上、時には十人近い家庭もザラにあった(すべての子供がちゃんと育つとは限らないからだ)。それが、都市型の生活になった途端、子供の数を極端に減らしていくようになった。一人っ子も珍しくない。それは、病気で死んでしまう確率が極端に減ったことに一番大きな原因があるだろう。最初っから子供の何人かは生き残れないことを前提に子供をたくさん作っていた時代とは、根本的に子孫の残し方が変わってしまったのだ。
 それでも、自然の摂理は残る。子供を作ろうとしてもできない家庭はできる。その確率が一割というのが多いのか少ないのかは私にもわからない。でも、それは当然ありえることだろうと思う。子供ができないことを「自然の摂理」とは受け入れられない夫婦は、何とか子供を作る方法を考える。「どんな手段を使ってでも」と考える人たちが行き着いたのが、妻以外の女性から卵子の提供を受けて夫の精子と体外受精させて受精卵を再び妻の子宮に戻すというやり方。でも、ちょっと待てよと考えてしまう。このやり方だと、親のDNAは父親のモノしか子供には受け継げない。母親は、極端な言い方をすれば「借り腹」にしか過ぎない。それでも、自分のお腹をいためたということだけで自分の子供として認知できるというのだろうか?
 もちろん、まだこのやり方は日本では認められていないが、おそらく近い将来には認めざるを得ない不妊治療の一つになってしまうだろうと思う。そうまでして子供を「作らなければならない」親の気持ちは私には理解できないが、仮にそれが理解できたとしても、解決しなければいけないのは「子供の人権」の問題だ。子供には、自分のDNAの提供者としての父とそうではない母、そして、自分のDNAの半分を担っている卵子の提供者の「母」が存在することになる。これは、親の離婚よりももっと複雑な心理的状況を子供にもたらすのではないだろうか?自分には、本当の両親とウソの母親がいる。そんな風に理解しないとも限らない。こういったことを親は子供にどうやって説明するのだろうか?
 テレビで実際にこの卵子提供を受けた夫婦がインタビューを受けていた。母親は子供に説明すべきだと言っていたが、父親の方は話すべきではないという主張をしていた。その論拠は「知らなくてもすむことなら知らない方がいい」。これは明らかに親のエゴだと思うし、親としての責任放棄でもある。親は産む子供に対してはあらゆる責任を負うべきだし、このような不自然な形で生まれてしまった子供に対しての責任はより大きいはず。いつからとは言えないが、最近、子供に対してあまりにも無責任な親が多く成り過ぎたような気がする。たくさん産んでたくさん育てていた「より自然な生物のサバイバル」を行っていた時代には、親は親としての責任を今よりもはるかにキチンと果たしていたような気がする。今の親は、子供が少なくなった分、親と子の関係を見失っているような気がしてならない。親が子に対して負う責任は、「いい大学にやる」ことでもなければ、「頭のいい子に育てる」ことでもない。ライオンの子育てのように、あらゆる野生生物の親がするように、子供を早く「自立させる」こと。それ以外に親の責任などないのではないのか?子離れも親離れもできないような親子関係が、健全な親子関係とは到底思えない。
 親が子供にすべきこと、それは子供を全面的に信頼することだし(つまり、ウソをつかないことでもある)、逆に、子供が親にすべきことは親を全面的に信頼することだ。これ以外の健全な親子関係が、一体どこにあるというのだろうか?

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