FEBRUARY 28のDIARY 『事実と真実』

 

  今、口語訳『古事記』という本を読んでいる。とても面白い。古語のまま読みこなすにはけっこうな知識がいるけれども、この訳だとよくわかる。まだ全部読み切ったわけではないけれど、この本を読んでいるとよくわかることがある。それは、事実と真実の違い。
 『日本書記』とか『古事記』には、日本の成り立ちに関する神話が書かれているけれども、旧約聖書やギリシャ神話、あるいは多くの神話の類いの本と比較しても、それぞれの国の成り立ちや人間の成り立ちなどが神話として描かれ方にはたくさんの共通性もあるし、また違うところもある。でも、そうした違いはあっても、それはただ単に、それぞれの国の事情やことばとか宗教観の違いがそうさせるだけで、本質的には人間が自分たちをどういう風な存在として見ているかとか「神」というものをどう考えているかといったところにそんな違いはないということもよくわかる。要は、事実と真実の違い。立場が違えば「真実」のとらえ方はおのずと違ってくる。そんなところかもしれない。
 どの国にも神話はある。で、それは実際にそれが起こったことを書いているというよりも、その国の人々の歴史観や人生観を表していることの方が多い。その意味では、それぞれの神話もそれぞれの国や国民の真実の姿を象徴的に描いているのかもしれない。科学的に言うなら、この地球や人間ができたのはすべて宇宙のビッグバンから始まっているんだと説明されるところだろうが、そんな科学的説明がその国の人々の歴史や考え方まで解き明かしてくれるわけではない。ユダヤにユダヤの、アラブにはアラブの、そして日本には日本の真実があるのだろうから、それが「事実」とは違うからと言って目くじらをたてるべきことではない。それよりも、問題は、その一つの国の「真実」が世界全体の「真実」に置き換わってしまうことの方がよっぽど「真実」から遠ざかってしまうということだ。
 アメリカがイラクに戦争をしかけるのは石油が理由だという人が多いが、そんなモノ(石油)永遠にあるわけではない。石油を取った取られたということよりも、私には、世界がこれから先たった一つの「真実」に支配されてしまう事の方がよっぽど恐ろしい。アメリカがまさにその恐怖を作ろうとしている。もしアメリカの「神話」で世界全部の「神話」が書き換えられてしまうならば、人間は事実を見誤るどころか、「真実」からも目をそむけなければならなくなってしまう。
 ひょっとしたら、今起こっている騒ぎは、アメリカというたかだか二百年程度の歴史しか持たない、まったく民衆の「神話」を持たない国だからこそ起こせる「騒ぎ」なのではないかと思う。ヨーロッパの移民たちがアメリカ大陸という土地に持ち込めたのけっして「歴史」でも「神話」でもなく、「モノ」でしかなかった。その「モノ」にこそ「真実」を求めようとする彼らの姿勢そのものが、世界を一つの「真実」に導こうとしている。北朝鮮だって、もともとは優秀な韓民族の偉大な「神話」を持っていたのに、それが共産主義という一つの「真実」を持ち込まれたことによって一時的な悲劇を体験しているだけなのかもしれない。今「そこにある」悲劇を見過ごすことはできないが、人類の歴史という長いスパンで見れば、彼の国の人にも本当の「真実」が訪れる日は必ずやってくるだろう。私はそう
思う

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