FEBRUARY 15のDIARY 『貧しい芸術家はいない』

 
  昨日のヴァレンタイン・ライブ、超満員で大盛況のうちに終わることができた。生まれて初めてのシェフということでちょっぴり緊張はしたものの、プロのシェフの手伝いもあり料理の出来も自分でもびっくりするぐらいの仕上がりで自分で自分に感激(こう言うのも変な話しだが)したライブでもあった。
 そんな中、ある一つの発見をした。それは、料理というものの人間に与える影響と、本当の芸術とは何か?ということ。
 別に難しい話でも何でもない。ただ、今まで気づかなかったことに改めて気づかされただけ。それは昔観たある一つの映画に関係する話しでもある。『バベットの晩餐会』というデンマークの映画が十数年前にあったが、その中で主人公のバベットさんが言うことばを改めて昨日思い起こさせられたのだ。
 十九世紀の終わりのデンマークのさびれた漁村に、ある日祖国フランスを追われたバベットさんが知り合いを伝ってある年老いた姉妹の家を訪ね、その家にお手伝いとして働くようになる。そして数年後、バベットさんが、趣味で買い続けていたフランスの宝くじに当たってしまう。実は、このバベットさん、パリの五つ星レストランの元シェフで、その賞金で世話になった村びと全員を呼んで、フルコースの食事を接待することにする。生まれて初めて食べる本格的なフランス料理に最初はおっかなびっくりだった村びとたちも、食事をするうちに自然と心が満たされ幸福感で一杯になってしまう。そして、宴の後、その姉妹がバベットさんに言う。 「もうお金がたくさんできたんだから、こんなお手伝いなんか止めてあなたはフランスに帰ってしまうんでしょう?」。そう聞かれたバベットさんが答える。
 「いえ、私は全財産を今夜一晩の料理に使い果たしてしまったので、また元の無一文です」。  それを聞いた姉妹が改めてバベットさんに聞く。
 「そんなことをして、何でまた貧乏になってしまったの?」。それに対してバベットさんがきっぱりと答える。
 「世の中に、貧しい芸術家はいませんから」。
 私は、この映画を観た時、このバベットさんのセリフにいたく感激した。
 「芸術家はお金がなくったって、心が豊かなんだから、けっして貧しくはないんだ」。私はそういう意味に解釈して、自分自身のことを照らしあわせて、とても感激したことを覚えている。しかし、昨日のライブで、私は、この映画のこのセリフがそれだけの意味ではないことを悟ったような気がした。それは、単純に、「心が豊かならば、けっして人間は貧しくはないんだ」というような表面的な意味ではなく、「芸術家は人に喜びを、幸せを与えることができるんだから、けっして貧しくはない。本当に感動できるような料理を作ることでも、音楽を演奏することでも、絵を描くことでも、人に感動と喜びを与えることのできる人は、使えばなくなってしまうお金とは違って、命の泉のように、汲めども汲めども尽きないものを持っている。だから、けっして貧しくはならないんだ」という意味をこのセリフは語っているんだということを初めて理解できたような気がしたからだ。
 本当においしい料理は人を本当に幸せにできる。だから、そんな料理を作ることのできる人は、バベットさんでなくても、本当の芸術家なのだろう。同じように、音楽でも絵画でも、スポーツでも、どんなものでも、本当に感動を人に与えることができる人こそが本当の意味での芸術家。そんな簡単なことが初めて実感として理解できたような気がした。
 芸術家というのは、単に料理のできる人、音楽のできる人、絵の描ける人のことを言うのではない。難しいことをやる事が芸術でも何でもないし、特殊な技術を持っている人が芸術なのでもない。人に与えるものを持っている人、人に幸福を、感動を与えることのできる人すべてが、本当の芸術家なんだ。そのことを、あの映画は言いたかったんじゃないだろうか?何かそんなことが自然と納得のできた昨日のライブだった。
 私も、少しばかり本当の意味でのアーティストに近づけたのだろうか?

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