DECEMBER 1のDIARY 『入浴初体験』

 
   友人の作曲家T氏の家に行く。私が作った豚汁と近所の花屋さんで買ったポインセチアを手みやげにして。手巻き寿司をごちそうになる。私が滅多に食べられない料理の一つだ。手巻き寿司とかお鍋料理は、比較的おおぜいの人間のいる家庭で楽しむための料理なので、一人暮らしの私にはとんと縁がない。一人でも鍋はできるよと言うかもしれないが、一人で鍋をやって何が楽しいのか?たくさんの人が鍋をつっつくからこそおいしく食べられる料理なのでは?  
 というようなわけで、私にとってはかなりのごちそうの手巻き寿司である。彼には、二人の娘がいる。上が8歳、下が4歳。私は、この4歳の娘に好かれてしまったらしい。遊び相手にさせられたのはもちろんだが、最後には「みつとみさんと一緒にお風呂に入りたい」とせがまれる。ま、待てよ。私は、子供を持った経験がないし、ましてや友達の娘と一緒に風呂に入るなんていう経験は生まれて初めてのことだ。その友達の奥さんが言う。「みつとみさん、きっとこれが最初で最後かもしれないから、入った方がいいかもしれない。きっと、すぐにそんなことを恥ずかしがるようになるから」。そうなのだろう。でも、やはり、何となく気遅れする。と、いきなりその4歳の娘がアッと言う間に裸になり、一目散に風呂場の方に行き、一緒に入ることをせがむ。そうか、もうこうなったら一緒に入るしかないのだろう。自分でも嬉しいのか仕方ないのかわからないような不思議な感覚で4歳の娘との入浴を初めて体験する。
 自分にもし子供がいたら、こんなことを毎日経験するのだろうか?いや、自分の年令だったらとっくにこんなことは経験済みだったはずなのになと思ってしまう(なぜ、自分には子供がいなかったのだろう?)。私が小さい頃、小学校の4年ぐらいまでは母親と一緒に銭湯に行き女風呂の方に入っていた記憶がある。家にも風呂があるにはあったが銭湯に行く人の方が圧倒的に多かった時代だ。
学校のクラスの仲間で「まだ女湯の方に入っているのか」と多少軽蔑の眼差しで見られたこともよく覚えている。小学校の4年ともなれば、母親と女湯に入る男の子は少なかった。照れがでてくる年頃だ。でも、その照れもきっと今ではもっと低学年から始まるのだろう。その母親が言う「上の子(8歳)はもうパパとは一緒に入らないから」。8歳で、もう立派に女性としての自覚がある。だから、たとえ相手が父親であっても異性を意識するのだろう。
 寒い冬空の夜中、帰る途中で風邪をひいては困る。私は、4歳の彼女の髪洗いや身体洗いの儀式を見守り、ゆっくりと心も身体も十分暖まりながら家路に着いた。

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