NOVEMBER23のDIARY 『香道を始めた』

 
  香道というものを始めた。昔からやろうとやろうと思っていてなかなかふんぎりのつかなかった香道への挑戦だ。香道っていうのは、読んで字のごとく「香りの道」、つまり茶道みたいなもの。ほとんど様式美が茶道からとられているようなスタイルで、もともとは平安時代の貴族の遊びが発展して、室町時代あたりから茶道にょうな形で香炉で沈香(つまり、熱しないと匂いのしない木のこと)を焚いてその匂いをあてるという何とも不思議な遊びになってしまったものだ。私はこの遊びをいつかやってみたいと思っていたところ、先月友人が習える場所を教えてくれた。銀座にある香りのお店の主催する教室に毎週通うことにした。  
これがまた面白い遊びだ。二十人近い人たち(男性は私を含めて2人だけ)が緋毛氈をコの字に敷いたところに座り、先生の焚く香炉の香りを作法にのっとって嗅いでいく。この作法がまたいい。お茶を飲む時に何回か回して飲む作法があるが、香炉でもこれがある。横に座った(というか私が座らされた)先輩のおばさんにすぐ注意される。回す角度が若干違っていたらしい。そして、香炉を置く時も注意された。枕香が灰の上に乗っているのだが、その灰に筋が入れてある。その筋のその角度を間違って置いてしまったらしい。それを指摘されて直させられた。でも、こういう風に作法を教えられるというのもある種の快感だ。「ああ、俺はこういう作法を今學ぼうとしている」という自分に酔うことができる。  
 作法についての詳述はやめる。というのも、まだ始めたばかりの私には、作法をどこまで習えばいいのか最終目標がまだわかっていないし、詳述と言えるほど作法を知らないからだ。だから、それはある程度の段階に来てからにしようと思う(何年かかるのかは定かでないが)。なので、今回の遊びで面白かったポイントを言う。まず、香りをあてるというのは本当にスリリングな遊びだということ。 今回私が習ったのは、「組香」という文学的なテーマがある遊びの一つの『雄鹿香』。『雄鹿香』では3種類の香りが基本になっている。「秋夜」「深山」「紅葉」という秋っぽい題材の香りが3種類、まずテストとして回ってくる。この3種類の香りの特徴をテストの段階でよく覚えておかなければならない。ここで特徴を頭の中にインプットするために、私は「秋夜=甘い」「深山=木くず」「紅葉=病院」という感じのコピーで覚えることにした。秋夜はシナモンのように甘い匂いだった。これは、誰がどう考えてもそうだと思った。そして、次の深山という香りがおがくずみたいにカンナで削ったばかりの木のくずのような匂いの感じがした。3番目の紅葉と言われる香りが3つの中では一番薄く、ちょっと梅のような沈んだお寺さんのような香りがしたので、勝手に「病院」なんていうコピーで覚えるようにした。そして、本番で、この3種類の香りがそれぞれ3回ずつ順不同で回されてくる。その順番をあてていくのがこの遊びのルール。でも、そこにもう一つのワナが用意されている。最初にテストで嗅がされた3種類の香りの他にそれとはまったく違うもう一つの香り(今回、それが「鹿」という名前の香りになっていた)がどこだかわからないが混じってくる。つまり、3種類の香りが3回ずつ。そして、4番目の香りが1回だけ。合計10回香炉が回ってくるのを、それがどういう香りの順番で来たかをあてていく。誰が一番正解に近いかを点数をつけて遊ぶのである。最初のテストの香りの段階でかなりきちんと香りをインプットしておかないと、どの香りを今嗅いでいるのかまったくわからなくなってしまう。  
 結局、私の点数は2点。つまり、2個の香りしかわからなかったということで、最高点の人は8点。けっこうすごい人がいるな、やはり初回ではあまりうまくいかないなと思っていたら、先生の点数(先生も生徒の間に混じっている)も私と同じ2点。しかも、私の答えとまったく同じ。今回どうも香を焚く人が焚いた順番を書いた紙の順番をちょっといれ違えてしまたったかもしれなかったので、正解が正解でない可能性も高い。ということは、先生と私がまったく同じ間違いをしていることは、私にとっては点数が低いことよりもけっこう希望が持てる展開なのだと勝手に解釈した。そう思ったら、私の点数のたったの2点がすごく優秀な2点に思えてきた。次ぎをまた頑張ろうという気持ちになった今回の「香道」初体験だった。

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