OCTOBER 29のDIARY『ロレンツォのオイル/命の詩』

 

 最近、医学書を読むことが多い。別に、私は医学を専門に勉強したことはまったくないので、その内容を理解するのはかなり難しいことが多いのだが、自分の書く題材に医学の知識が必要なこともあって、慣れない頭をフル稼動して読みあさっている。
 今日、たまたま「ディスカバリー・チャンネル」を見ていたら、オーストラリアの18才の少年のドキュメンタリーをやていた。 以前、民放でもこの少年のことを紹介していた番組を見たことがあるが、彼は、世の中のありとあらゆる化学物質を受けつけることができない特殊な身体の持ち主である。食べ物はおろか、息を吸う空気さえもが一切の化学物質フリーの状態でないと生きられない。 つまり、彼は、浄化された空気のある自宅の部屋から一歩も外に出ることができないのだ。そのドキュメントを撮影するクルーも、事前にまったく匂いのしない石鹸で洗った身体と服、そして無菌、無臭のカメラを用意していかないと彼の前で撮影することはできない。 そんな状態の彼も、詩を書いたり、本を読んだりしながら生活し、自作の詩集や本を出版したりしている。この番組を見ながら思ったのは、彼とその家族のことだった。化学工場の役員だった父親(彼は、自分の仕事が発病の原因だと考えているが)と、交通事故で首の自由を失っている優しい母親の彼の病気に対する取り組みと献身は、いつか見た映画『ロレンツォのオイル/命の詩』を思い起こさせた。
 副腎白質ジストロフィという特殊な病気に冒された少年を救うために、それこそ献身とか看病とかいった次元をはるかに越えた努力をする父と母の姿をニック・ノルティとスーザン・サランドンが演じていた。この映画は、実話を題材に作られていることもすごいのだが、この二人の演技、そして、そこから透けて見える実在の父と母の姿、そして、ほとんど明日にも死んでしまっていたかもしれない少年を生還させる姿に感動と狂気を同時に覚えてしまう。単なる感動モノとは完全に一線を画している。 この映画、実は、ビデオ屋で見た時に、「何だ、お涙ちょうだいモノか?」と思って一瞬借りるのをためらったのだが、実際見てみてこれほど良かったと思った映画も珍しかった。
 この副腎白質ジストロフィという病気は、今でもはっきりとした原因と治療法がわかっている病気ではないらしい。神経細胞(ニューロン)は、神経の電気信号を伝える中心の軸索とそのまわりを囲むミエリン鞘というもので作られているのだが、この病気は、この神経の外側を包み込んでいる脂肪の束(ミエリン鞘)が何かの原因で壊されていって、神経伝達がちゃんとできなくなって、その結果、性格破壊、運動機能の破壊、その他、身体のあらゆる機能が破壊されていって死んでしまうというエラく恐ろしい病気なのである。 しかも、これはそのほとんどが10才以前の子供時代に発病して、成人までは生きられないという病気でもある。遺伝性ということもわかっていて、ほとんど男の子(しかも、そのほとんどが白人)にしか発病しないという。要するに、男はXYの遺伝子なので、この病気の遺伝子がX染色体の中にあるために発病する確率が高いが、女の子はXが二つあるから、どっちか一方のX染色体がヤバくなっても、もう一つでカバーできるということらしい。
 ただ、この映画を見て思うのは、こんな難しい医学的な事柄、しかも細胞や遺伝子、染色体の異常などという所に着目して、特殊なオリーブ・オイルが病気に効く事を発見するこの両親たちの努力だ。医者や専門家からは、無理だ、バカだと言われながら、この病気を研究し、オイルを作り実際に子供に飲ませ、現在もまだその子は生きている事実は驚嘆に値する。 この話しは、1991年の話しなので、少年は、それから十年生き長らえていることになる。残念ながら、身体の機能的な部分はかなりマヒした状態らしいが、それでも、この少年は死の淵から生還している(母親の方が、先に、昨年肺ガンのために亡くなってしまった)。この映画をまだ見たことのない人は、ぜひ一度見てみることをお進めする。きっと、思いがけないモノをそこから見つけだすことができるかもしれない。

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